「雌に選ばれるのは、つよい雄」説が、あながち間違いとも言えないワケ…生物の進化学から考える「この世界での生存条件」
種の起源や進化、繁殖、生物多様性などについて研究を行う「進化生物学」。気の遠くなるような長大な時間の経過のなかで、今日の多様な生物世界にいたるまでのさまざまな変化を読み解く、興味深い学問です。 【画像】進化学者が気づいた…人間とコミュニケーションと恋愛の本質 そうした「進化生物学」の醍醐味を描いた一連のエッセイ的な作品をご紹介していきましょう。 今回は、進化における恋愛=「交配に関わる性質」についての考察をお届けしましょう。観賞魚としても人気のきれいな小魚「グッピー」の異性に対する好みから、遺伝子の複雑さを考えてみます。 *本記事は、ブルーバックス『進化のからくり 現代のダーウィンたちの物語』を再構成・再編集してお届けします。
人を愛すること以上に芸術的なものはない
稀代の画家ファン・ゴッホの言葉だが、あらゆるアート、文芸、エンターテインメントを通じて人気のジャンルがラブロマンスだ。なかんずく男女の三角関係が絡む恋愛は、浮舟を巡る千年前の悲恋の物語以来、創作の中心となるモチーフである。 実は進化学者の関心も同じ。恋愛モノは、進化研究の中核となるテーマだ。ただし進化学者は、それを恋愛とは呼ばない。一切の情緒を排し、「交配に関わる性質」と呼ぶ。狭義には遺伝情報の交換の仕組み。一般化すれば、どうすれば相手と上手くコミュニケーションができるか、という話になるかもしれない。 なぜそれが重要なのか。理由が二つある。まず一つ目。それは、性選択ーー交配に関係する性質にかかる特別な様式の自然選択ーープロセスが、進化を深く理解するためのモデルになるからだ。 例えば極楽鳥の雄の華麗な求愛ダンス。その激しく魅力的な踊りと華美な羽の進化は、雄の形質に対する雌の選り好みの結果である。「好み」は遺伝的にどう決まり、どう進化するのか。これがわかれば、新しい性質の進化に何が重要か、知ることができる。 次に理由の二つ目。それは種の多様化に関するものだ。なぜ交配できなくなるのかわかれば、生殖的隔離が進化するのか、すなわち新しい種がどのようにできるのかという、種分化の仕組みを知ることができる。