ウェッブ宇宙望遠鏡が観測した暗黒星雲「馬頭星雲」のクローズアップ
こちらは「オリオン座」の方向約1300光年先にある有名な暗黒星雲「馬頭星雲(Horsehead Nebula)」のクローズアップです。画像下側の白い煙のようなものは“馬のたてがみ”にあたる部分で、水素・メタン・氷(水の氷)といったさまざまな物質を含む分子雲の構造が詳細に捉えられています。 ユークリッド宇宙望遠鏡が撮影した「馬頭星雲」 暗黒星雲はガスと塵(ダスト)が高密度に集まっている天体です。向こう側にある天体から放射された可視光線を塵が遮り、地球からはその場所が暗く見えることから“暗黒”星雲と呼ばれています。 オリオン座の方向には「オリオン座分子雲」と呼ばれる広大な星形成領域があって、馬頭星雲はその一部を成しています。可視光線では馬頭星雲の背景が赤く見えますが、この赤い光は大質量星から放射された紫外線によって電離した水素から放たれています。このような領域は電離水素領域やHII(エイチツー)領域と呼ばれています。ちなみに、馬頭星雲の背景に広がる電離水素領域は輝線星雲「IC 434」として知られています。 この画像は「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope: JWST)」の「近赤外線カメラ(NIRCam)」で取得したデータをもとに作成されました。ウェッブ宇宙望遠鏡は人の目で捉えることができない赤外線の波長で主に観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されています。
次の画像は3つの宇宙望遠鏡で撮影された馬頭星雲を比較したものです。左は欧州宇宙機関(ESA)の「ユークリッド宇宙望遠鏡(Euclid)」、中央は「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope: HST)」で撮影された画像で、右は冒頭と同じウェッブ宇宙望遠鏡のNIRCamで撮影された画像です。左から右へと進むにしたがって、馬頭星雲が段階的にクローズアップされていくように並べられています。 ウェッブ宇宙望遠鏡を運用するアメリカの宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、馬頭星雲は光解離領域(Photodissociation Region: PDR)の一つとしてよく知られています。光解離領域は電離水素領域と分子雲の境界にあたり、若い大質量星から放射された紫外線の作用によって電気的にほぼ中性なガスと塵の領域が形作られています。初期宇宙から現在までの宇宙全体における星間物質の進化を促す物理的・化学的プロセスを研究する上で、光解離領域が放つ光は独自のツールを提供してくれるのだといいます。