なぜ議論しない?野放しにされたままのネット選挙、2025年「選挙イヤー」を前にいますぐ改革を開始すべきだ
■ 不安定な政局でネット選挙改革の動きは? インターネットを使ったキャンペーン、すなわち、いわゆるネット選挙も制度導入の2013年と現在を比較して大きく変化している。 それは動画であり、配信の主流化であり、表示回数、再生回数に応じた経済的インセンティブの普及により、ネット上で人気があり、その人物が登場する動画の再生回数が増加するインフルエンサーは「他者の収益化」に貢献できるようになった。 自分が投稿する動画だけではなく、その人物が登場する他者撮影、配信の動画の再生回数も増やし、他人を儲けさせるのである。「他者の収益化」は2013年当時は一般的ではなかったが、現在のXやYouTube、Instagram、TikTokなどで広く一般的になった機能である。 そして政治家も例外ではない。石丸氏や立花氏、玉木氏や榛葉氏などはその代表格といえる。前回連載ではこうした変化や2013年当時からの選挙制度の想定外の活用とあわせてその「発展」を論じた。 ◎熱狂を生み出す「SNS選挙」、その裏にある「盛り上がって」「儲かる」テクニックとは? 急がれるネット選挙の法整備 【西田亮介の週刊時評】| JBpress (ジェイビープレス) 日本の場合、政治改革は昨今ようやく進み始めた政治とカネの改革を見てもわかるように、政治主導の代表的な分野である。ネット選挙も含めて、選挙制度改革も同様である。 ネット選挙も含めて、総務省の選挙課が所掌するが、関係する有識者会議なども近年開催された形跡がない。ネット(ICT)を活用した投票環境の向上を目的の筆頭に掲げていた「投票環境の向上方策等に関する研究会」は平成30年を最後に開催されていないこともすでに述べたとおりである。 宙吊り議会という不安定な政治環境の中で、そして来夏に参院選を控えるのみならず、政局が行き詰まれば解散総選挙やダブル選挙の可能性も囁かれるなかで、与野党がネット選挙や規制の在り方について冷静に腰を据えて検討、議論できるかというとかなり難しいのではないか。 既存政党の多くがSNSや動画配信に苦手意識を持つ一方で、キャスティングボートを握る国民民主党はこれらを得意としているように目されるので、方向性を擦り合わせることすら難しそうだ。 外資系企業を多く含むプラットフォーム事業者への配慮の要請がなされているが、地方選挙を含めると、実は年中、日本のどこかで選挙が行われていることになる。プラットフォーム事業者の収益の中核ともいえる収益化の制限を実効的なかたちで要請することはかなり難しいのではないか。 現実的な規制は表現の自由の過剰制約のリスクもあわせて考えると設計がかなり難しいと思われるが、そうであればこそ規制ありきではなくフラットなかたちで、現状の評価や調査、また有識者による検討などについては、総務省主導で早急に行うべきにも思われるがどうか。 そもそも2013年から放置されたままの論点もある。それが電子メール規制だ。 現在、一般有権者には電子メール(と携帯電話のショートメッセージサービス)を用いた選挙運動は認められていない。電子メールを用いた選挙運動が出来るのは候補者と政党等に限られている。 主たる理由として、密室性が高く、誹謗中傷やなりすましが多く悪用されやすいことや、ウイルス等を念頭において悪質な電子メールで有権者に過度な負担がかかることが挙げられている。 ただ、すでにインターネットを使うさまざまなメッセージサービスが普及し、それらが電子メールと同等か、それ以上の機能を有しているにもかかわらず、送信メールサーバーも経由せず、ショートメッセージサービスでもないことから、通常のWebサービスと同じように位置づけられ、選挙運動に活用できる現実を思えば、こうした規制は有名無実以外の何者でもないだろう。一般有権者にも認めるべきだ。 有償広告も同様で、候補者本人も認められていないのである(政党等に限られている)。しかも当時、主に検討されていたのはあくまで有償のバナー広告やプロモーション投稿であって、本稿で述べた「他者の収益化」を可能にするプラットフォームサービスの近年の傾向はほぼ検討されないまま今日に至っている。 なお以前、江東区長本人が本人名義のクレジットカードで有償広告代金を支払ったことが公選法違反事件となり、東京15区補選の遠因となった。 こうした複雑な在り方については、2013年公選法改正時から問題視され、次の次の国政選挙までにそれぞれの解禁に向けて適切な措置を取ることが附則の検討事項に記された。 (検討) 第五条 公職の候補者及び政党その他の政治団体以外の者が行う電子メール(新法第百四十二条の三第一項に規定する電子メールをいう。)を利用する方法による選挙運動については、次回の国政選挙(施行日以後初めてその期日を公示される衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙のうちその期日が早いものをいう。以下同じ。)後、その実施状況の検討を踏まえ、次々回の国政選挙(次回の国政選挙後初めてその期日を公示される衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙のうちその期日の公示の日が早いものをいう。)における解禁について適切な措置が講ぜられるものとする。 2 新法第百四十二条の六第四項に定める有料広告の特例については、公職の候補者にもこれを認めることについて検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。 (「衆法 第183回国会 3 公職選挙法の一部を改正する法律案に対する修正案(自民・維新・公明案)」より引用) もちろん附則の記述のため、法的拘束力は持たないが、総務省を含めて検討すら公式には行われていないことに強い違和を覚える。 インターネットや動画配信が広く普及し、もはやそれらは若い世代や、アーリー・アダプターだけのものではなくなった。マスメディアの凋落もあり、むしろメディアの主役になっている。 2024年はナラティブだとしても「SNS選挙」、すなわちネット選挙に強い関心が集まった年でもあり、冒頭記したように来年も選挙イヤーとなる可能性が高い。直近で見られたオンライン・キャンペーンや選挙制度の隙を突くような手法はますます巧妙になり発展するだろう。 制度改革はすでに手遅れに思われるが、現状の評価や検討くらいは早急に始めるべきではないか。
西田 亮介