なぜ議論しない?野放しにされたままのネット選挙、2025年「選挙イヤー」を前にいますぐ改革を開始すべきだ
■ 批判すべき「SNS選挙」というメディアの紋切り表現 名古屋市長選挙では「減税と経済成長」のナラティブが人気を博した。しかし名古屋市が発行する『名古屋市の財政 令和5年版』の「市税収入の推移」(p.11)を見てみると、実績はどうも異なることに気づくことができる。 名古屋市の市税収入の3本柱が上位から個人市民税(2362億円)、固定資産税(2270億円)、法人市民税(597億円)で推移していることがわかる(カッコ内は直近令和4年度実績)。 それぞれのトレンドはどうか。ぜひ各自の目で確かめてほしいが、法人市民税収は過去10年横ばいか微減。固定資産税収は微増。個人市民税収は大きく(800億円程度)伸びている。 だが個人市民税収については平成30年に愛知県から名古屋市への税源移譲が行われたことで増加した旨が記されている(p.12)。固定資産税の伸びはこの間の都市部における全国的な土地価格の伸びに起因すると考えるのが普通であるから、むしろアベノミクスの影響といえそうだ。 少なくとも減税が市税収入の伸びに寄与したとはいえなさそうなことが示唆される。物価高騰の影響も考えられるが、近年、減税や手取り増に対する現役世代の関心と評価は高い。 このように個別に見ていくと、「SNS選挙」と評されることが多かった2024年のそれぞれの選挙に相当の個別性があることが見てとれる。 そのうえで批判すべきは、「SNS選挙」「動画の影響」というナラティブの拡大と再生産に寄与したメディアの紋切り表現かもしれない。特に見出しなどで顕著だった。 少し検索すれば明らかだが、多くの報道各社が今年の選挙で、何度もこうした表現や論調を繰り返した。 詳しい検討に踏み出すことなく、目新しい共通点に引きずられすぎているのではないか。各社の表現、編集の自由があるのは明らかだが、根拠のないナラティブもマスメディアが繰り返し報じるなかで人々の認識や規範形成に影響することがあるため注意が求められるだろう。 なお以前から述べているように、ここまでの簡単な検討は「SNSが影響していない」ということを言いたいわけではない。 モデルもなく、SNSにおける投稿戦略、投稿量、フォロワー数、動画の再生回数といった説明変数の特定も、得票数なのか、それとも当選の可否といった従属変数の特定もないまま、「SNS選挙」と強調することには人々のマスメディア不信を促進し、SNS上の情報の過度な権威化を促しかねず、百害あって一利なしではないかという指摘である。