高2で突然脳出血で倒れ、言葉を失った少年 現在20歳の青年が、家族と協力し歩けるようになるまで
リハビリの様子を発信する理由
リハビリの様子を発信しているお父さん。その理由は3つありました。 陸さんが脳出血を発症し意識がなかった頃、とにかく若年層で長期の意識障害に陥っている事例の情報が欲しかったといいます。 「一生寝たきりで意識が戻らないままなのか、戻ったとしてどの程度まで回復するのか。些細な情報でもよかったのですが探すことができませんでした」 必死で情報を漁っていたというお父さん。今後同じ境遇の方や、その家族にとって、陸さんの事例が何かしらの参考となり、立ち向かう力になればと思い発信を始めたといいます。 Instagramを使ったのはこのときが初めて。 フォロワー0人からのスタートだったものの、2、3ヶ月後には家族が急に脳出血で倒れ意識がないという同じ境遇の方から連絡をもらうことが増えました。 「陸の姿に希望を持てたというメッセージは、陸にとってもエネルギーになっているようです」 また、発信の目的の一つに「佐川陸」という存在が、世間から忘れ去られてしまわないように、との気持ちもあったといいます。 「自発的にコミュニケーションをとることが苦手になってしまった陸は、どうしても閉じこもりがちになってしまいます。発信することで外の世界と繋がり、様々な出会いを通じて未来を切り拓くきっかけになればと思っています」 そして、病気について一人でも多くの人に“知ってもらいたい”という思いがあります。 「失語症や高次脳機能障害は認知度自体が低く、どんな症状かも理解しづらいと思います。投稿を通じて『こんな障がいもあるんだ』と関心をもってもらうことが第一歩だと感じています。それにはリアリティこそが必要だと感じ、陸とも相談のうえ悩みましたが、顔出し・名前だしで投稿することにしました」
現在の症状について
倒れてから右半身麻痺や失語症、記憶障がいなどの高次脳機能障害が残ったという陸さん。麻痺については、陸さんの場合、右上肢は発症から3年半経った今もほとんど動かせないといいます。 「陸は右腕・右手の存在が意識下にないのか、頻繁に物や人に当ててしまっています。生活はすべて左手だけで行っており、もともと左利きだったことは不幸中の幸いでした」 「右下肢は、発症132日目にして初めて神経回路が繋がり(脳の可塑性)、踏み込む力が出ました。しかし、寝たきり状態が長かったため、足首が内反・尖足(内側に捻り、かつ指先に向けて伸びた状態)で固まっていました。発症から1年以上経ち、アキレス腱延長の手術により床に足裏を付けられるようになってから徐々に歩行訓練ができはじめ、今では、床がフラットな場所であれば、安定した杖歩行ができるようになりました」 また、そのほかにも右半身麻痺の影響として、右視野欠損や右での咀嚼が困難です。 「陸が社会で生きていくために、最大の試練となっている後遺症」と話す“高次脳機能障害”については、一般的に「見えない障害」ともいわれ、まだまだ社会的認知は低いといいます。 陸さんの場合、右半身麻痺よりも高次脳機能障害のほうが圧倒的に生活を困難なものにしているとのこと。 「高次脳機能障害は脳の一部が損傷し、思考・記憶・行為・言語・注意などの脳機能に障害が残る状態です。陸は性格自体、素直で穏やかに変わったほか、思考力、理解力等が圧倒的に落ちてしまいました」 また、失語症により、ひらがな、カタカナ、漢字、数字、アルファベットなど、ごく当たり前の言語能力がすべて失われてしまいました。 「発症から2年半程で、徐々にひらがなが使えるようになりました。現在、ひらがなと数字に関しては、30文字程度の一文を読むのに1分程かかります。ただし、カタカナ、漢字、アルファベットはまだまだ読めません。文字を忘れるっていうのは想像もつかない世界です」 一方で言葉を耳で聞いての理解と、発話は少しずつ回復しており、簡単な日常会話はできるようになってきているとのこと。 記憶障害については、発症前の出来事や人はしっかりと覚えているものの、発症後の新しい出来事は脳にストックできても、上手く脳から引き出せない状態だといいます。今日何を食べたか、学校でどんなことをしたかなど思い出すことができません。 「5ヶ月間入院していた病院で外出許可をもらった際、帰りの車内でどこに行っていたか忘れていただけでなく、病院に戻っても『この場所は知らない』と反応をしたのには驚きました。人のことは覚えているので、スタッフの方と顔を合わせて、やっと病院のことを認識できたようでした。これも失語症と同様、近くにいてもどんな状態なのか想像すらつきません」 18歳でリハビリを兼ねて編入した特別支援学校では、「何にも覚えてないんよ。学校行っても意味がない」と頻繁に落ち込んでいたという陸さん。それからは都度写真に撮ったり、スマホにメモしたりして出来事を記録しています。後から見返すことで記憶が想起され、一連の出来事を思い出すことができるそう。 さらに、地誌的障害もあり、今いる場所がどの辺なのか理解が困難です。 「頻繁に通うショッピングモールでも売り場の場所が覚えられないので、仮に一人で歩けるようになっても単独での外出には相当高いハードルがありそうです」