日本人メジャーリーガーの滑り込みトレードは無風?
ただし、である。イチローが、7月31日のトレード期限までにどこかへトレードされる、という可能性については、今のマーリンズの状況を考えると否定できない。 開幕前、決して評判の悪くなかったマーリンズだが、前半を終えて、ナ・リーグ東区地区の4位でゲーム差は11。ワイルドカード争いでもナ・リーグの10位で、10ゲーム差。残念ながらプレイオフ進出への道は遠くにかすむ。 そうした場合、メジャー一般の傾向に倣うなら、今季限りで契約が切れ、他のチームにとって価値がある選手は、トレードされる傾向が高まる。マーリンズの中では、先発のマット・レイトス、ダン・ヘイレンなどがまさにそうで、イチローもまた、そうした対象の1人と言える。 実際、主砲のジャンカルロ・スタントンが長期離脱した段階で、遅かれ早かれマーリンズは今季を諦め、来季に向けた戦いに舵を切ることを迫られる、との見方が生まれ、伴ってイチローの移籍籍候補先として、プレイオフ出場争い、あるいはその先のポストシーズンを見据え、外野手の補強を必要とするオリオールズ、レイズ、エンゼルスらの名前が挙がった。そのロジックに無理はない。メジャーの常識的な考えだ。 しかしながらそんな一方で、マーリンズは契約延長を考えている、という話があるのも事実。そもそも彼らはイチローと契約した際、球団のトップが揃って日本まで行き会見に出席したほど、イチロー獲得に沸いた。イチローに関しては“聖域”とも見られており、そういう事情をよく知るからか、マイアミの地元メディアは、イチローがトレードされる可能性を一切報じていない。 イチローを必要としているチームは確実にある。メジャーの一般的なパターンを考えれば、イチローがトレードされる条件は揃う。が、状況がどうであれ、マーリンズがどこよりもイチローを必要としているーーそういうことなのかもしれない。
他の日本人大リーガーの中では、マリナーズの岩隈久志もトレード候補に挙がっている。 マリナーズは現在、プレイオフ戦線にギリギリ踏みとどまっている。前半を終え、ア・リーグ西地区では7ゲーム差の4位。ワイルドカード争いでは7ゲーム差の11位だが、ゲーム差が仮に揃って10ゲームを超えてくれば、今季は諦めて来季に向けた戦いを自ずと迫られる。 そういう中で、岩隈はどういう立場にあるのか。 まず、岩隈の契約は今季で切れる。マリナーズがプレイオフ出場を諦めた時点で、トレード候補となるのは、イチローと同じ状況だ。 チームとしては若い投手に機会を与えて、経験を積ませたい。逆に、プレイオフ出場圏内にいるものの、先発の布陣に不安があるチームなら、岩隈はぜひとも欲しい投手となる。先日、CBSスポーツのジョー・ヘイマン記者が、「ドジャース、ブルージェイズ、ナショナルズのスカウトが、登板を見ていた」と伝え、トレードの可能性を伝えたのも、そうした状況が下地にあるのだろう。 ただ、現実的には岩隈のトレードはあり得ない。確かに状況は揃っているかもしれないが、原則として、マリナーズは岩隈と再契約の方針なのである。トレードが発表されるぐらいなら、再契約が発表される可能性の方が高い。そもそも保身に走るズレンシックGMに岩隈をトレードに出すガッツなどない。その意味は察してもらえればと思うが、上を向いて仕事をしているGMには、岩隈をトレードできない。 さて、12日。マリナーズはリードオフマンのベン・リベラ外野手(フィリ ーズ)を狙っている、という噂が流れた。極めて現実なターゲットだが、スケールが小さすぎて、浮上のきっかけを掴めないチームの刺激にはならない。どうせなら、ヤンキースのジャコビー・エルズベリー辺りを狙うぐらいの覚悟が欲しいところ。 イチローと岩隈に話を戻せば、確かに今年で契約が切れ、他チームが必要としているという点では共通し、トレードの要件を満たすが、状況を冷静に読み解けば移籍の可能性は極めて低い。100%とは言わないが、本人がそれを望まない限り、やはり動きはなさそうである。またプレーオフ進出をあきらめないレッドソックスの上原浩治、田澤純一のコンビもチームが離しそうにない。日本人メジャーリーガーの滑り込みトレードは無風に終わりそうである。 (文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)