セザール・トロワグロが語る、世代を超えて受け継がれる“料理芸術”の系譜とは
トロワグロ家と深いえにしを持つ日本と日本の料理への思い
── 日本にあるレストランで好きな店はどこですか? セザール 最後に日本に行ったのは2019年なんですが、それより以前に行った八雲茶寮が素晴らしかったです。まず場所のデザイン、食事では米の料理が印象に残っています。米が土鍋で炊かれたのですが、下にカニが敷かれていました。シェフはシンプルに米とデリケートな味わいのカニをよそってくれました。カニの身にはヘーゼルナッツの味わいがあって、米と相まって素晴らしかった。シンプルでありながら、同時に作るのが難しいひと皿なのだと思いました。 デザートでは、美しい照明、オブジェで演出された隣の茶室に行って、餅を食べました。目の前で、即興で作ってくれて、みんなでそれをシェアする。そしてそれをすぐ食べる。 餅が最適なテクスチャー、温度になるようにコントロールされていて、また演出がとても美しかったのが印象的でした。畳にシェフが座り、小さなテーブルを置いて、後ろには日本庭園があって、美しい照明が空間を照らして。禅の世界といった感じでした。デザイナーがディテールまで凝って、まるで魔法のような経験でした。 ── 日本の料理についてどう思いますか? また、世界で一番ミシュランの星が多い東京という街についてどう思いますか? セザール 日本は料理人にとってインスピレーションを与える素晴らしい国です。素材、食物へのリスペクトがあって、ミシュランガイドが特別にエネルギー、時間を注ぐのは無理はない。フランスのガストロノミー文化と同じかそれ以上に豊かだと思います。 1968年にトロワグロが初めて日本に来て、この“料理の宝”に魅了されました。私は日本の料理への敬意、たゆまぬ改革の姿勢にとても感心しています。日本の料理は正確さが際立っています。スタイル、食材、温度、味付けの正確さです。純粋さも素晴らしい。 東京郊外の蕎麦屋に連れて行ってもらった時のことです。ちょっと秘密のアドレスなんですけど、きぬたやという店で、とてもシンプルなんですが、同時にクオリティがとても高かった。確か、5、6種類の蕎麦を食べたと思います。違う産地の蕎麦を使い、いろいろな形にして、蕎麦を堪能させてくれるんです。たぶん、東京で最もおいしい蕎麦の一つだったんじゃないかと思います。