セザール・トロワグロが語る、世代を超えて受け継がれる“料理芸術”の系譜とは
── どんな音楽が好きなんですか? セザール ヒップホップもエレクトロニックも全部好きですね。私は、ドラム、パーカッションを演奏します。ギターも弾きます。アメリカのブランドのギターを2本、東京で買いましたよ。 ── お父さんのミシェルはどう思っていたのでしょうか? 料理人の父親は「料理人は大変だから、息子には料理人になってほしくない」という方もいますし、料理人の息子さんの中には、料理人にならず、マネージャーになる人もいます。 セザール 両親は私に好きにさせてくれました。この仕事をするようにと言われたことは一度もありません。だから自分の好きな料理の道に進むのは私自身が下した選択でした。料理というのは夢中にさせられるもの、遊び心があります。やっていて楽しいんです。毎日美味しい食材を組み合わせて喜びを生み出し、非常におもしろい仕事だと思います。ホールのマネージャーも素晴らしい仕事ですが、手作業、創造性という面では料理人がいいなと思います。 ── お父さんから受け継いだものは何ですか? 例えば、料理人としての創造性、人に対する態度、環境への配慮など。何を一番お父さんから受け継ぎ、あなたのお子さんに繋げていきたいですか? セザール 仕事や人々への敬意、お客様やみんなへの愛情……。料理人という仕事の大きな特徴は、人を好きでないといけないということです。創造性やメソッドなど、父は私がたどる道を示してくれました。常に満足すること、そして好奇心など、たくさんありますね。 ── あなた自身はあなたのお嬢さんや息子さんに何を伝えていきたいですか? セザール 私が知っていることすべてです!
トロワグロの料理を特徴づける酸味へのこだわりを受け継いで
── トロワグロといえば、「ソモン・ア・ロゼイユ(鮭のオゼイユ風味)」が有名ですが、この皿のようにシグネチャーとなるあなたの料理を目指していますか? セザール いいえ。「ソモン・ア・ロゼイユ」は60年代に誕生し、メゾンのシグネチャーになりましたが、それはお客様が決めるのであって、シェフ自身が任命するものではないのではないかと思うのです。もちろん私が作ったものでお客様が大いに気に入ってくれて目立つ皿はありますが、しかし、私は、スタイル、エスプリ、フィロゾフィの方が重要なのではないか、社会が求めているのではないかと思うのです。 ── 「ソモン・ア・ロゼイユ」 に象徴されるように、“トロワグロの料理には酸味が大切だ”と、あるインタビュー記事でミシェルさんが話しているのを読みましたが、それについてはどう思いますか? あなたも酸味を料理に加えますか? セザール はい。私の料理には酸味を加えています。酸味が好きなんです。私の味蕾はそのように教育されてきて、酸味に寛大にできているのだと思います。教育の問題ですね。父は酸味好きで、すでにあった先代からの酸味の伝承をさらに発展させましたし、私もいつも酸味を加えて自分の料理のバランスを取っています。 色々な食材を使って酸味をつけます。酢、オゼイユをはじめとするハーブ類、柑橘類、発酵食品、乳製品、ピクルスみたいなマリネしたもの、レモン汁数滴などです。気を付けているのは、バランスと軽さです。 ── 映画の中に、シソを使ったあなたの料理が登場します。シソはどのように発見したのですか? 日本で食べたのですか? セザール 数年前に日本で知りました。独特な香りですね。後に、タネを見つけて、蒔いてみたんです。最初の年はうまくいかなくて、2年目にうまくいきました。そのタネがまた地面に落ちて、今や、たくさん生えていますよ。 日本で食べたシソを使った食品は、梅干しだったと思います。フルーティなアロマ、ちょっとクミンのような味、旨味がありました。とてもおもしろい。日本ではシソの葉をミントのようにほんの少し、かけらくらいではなくて、結構な量を食べますよね。とてもアロマのあるハーブですが、ほんの少しでは意味がない。私たちも、少なくともシソの葉を丸ごとあるいは半分くらい使います。