セザール・トロワグロが語る、世代を超えて受け継がれる“料理芸術”の系譜とは
幸せそうな両親の姿を見て、料理人になりたいと決意
── トロワグロ家は55年間にわたり、ミシュラン3つ星を保持し続けてきました。このような一家は世界に一つですよね。あなたは有名な料理人の一家に誕生しましたが、自然に料理人になろうと思ったのですか? 他の職業に就こうとは思わなかったのですか? セザール 別の仕事をしようと思っていました。青少年期には音楽で身を立てたいと思っていたんです。だから、少し反抗していましたね。両親に対してではなくて、当然、料理人になるんだよねという周囲の人が考える“義務”に対してですね。何か違うことがしたいなと思っていました。でも、高校の最終学年の18歳の時に自分の将来について考えて、料理の道に進もうと思ったんです。卒業後は、ポール・ボキューズ学院に進みました。 ── でも、どうして急に考えを変えたんですか? セザール 多分早熟だったんでしょうね。思い返してみると、両親が幸せそうにこの仕事をしていましたから、きっといい仕事なんだと思いました。 ── あなたは音楽で身を立てようと思うくらい音楽好きですが、音楽と料理には繋がりがあると思いますか? セザール あると思います。クリエイティビティとか、毎日繰り返す仕事の反復とか。メソッド、知識。音楽をする人はクリエイティブであるためにはたくさんのレパートリーを持たねばなりませんが、それは料理でも同様です。私たちにはベースとなるレパートリーがあり、これが創造の大きな材料になるわけです。大勢で繰り返し作り、少しでも良いものを生み出す。 商業的な意味においても、例えば、ミュージシャンの世界ではディスクを販売したり、コンサートしたりしますが、私たちの仕事も一緒で、クリエイティブであると同時に、レストランはいつもお客様で満席でなくてはならない。テクニックは必ずしも人々が好むものではありませんが、人々が満足するものでなくてはなりません。創造性のアプローチの意味で、音楽と料理にはたくさん似ている点があると思います。 第一に大切なものは、食べたいという、とてもシンプルな感情です。シンプルであり、極めて的確なものであることが大切なのだと思います。何回聞いても飽きない音楽のように。