セザール・トロワグロが語る、世代を超えて受け継がれる“料理芸術”の系譜とは
94歳のフレデリック・ワイズマン監督が撮った映画『至福のレストラン 三つ星トロワグロ』が8月23日より公開されます。三代にわたりミシュラン三つ星を保持する世界で唯一のメゾンである「トロワグロ」。その歴史を四代目として繋いでいくセザール・トロワグロさんにインタビューしました。 PEOPLE NOW
現存する最も偉大なドキュメンタリー作家と呼ばれる94歳のフレデリック・ワイズマン監督が撮りたいと願ったのは、フランス中部の小さな村ウーシュに佇む「トロワグロ」のレストラン。55年もの間、三代にわたりミシュラン三つ星を保持する世界で唯一のメゾンです。 ワイズマン監督は映画『至福のレストラン 三つ星トロワグロ』の中、独立したメゾンとして三代目ミシェルさんと四代目セザールさんが一家で繋いでいく料理への情熱と愛、真摯に味を追求する職人の姿を映し出します。この映画は、2023年全米映画批評家協会賞ノンフィクション映画賞など数々の映画アワードに輝きました。日本での公開に際し、フランスと日本をオンラインで結び、セザールさんにインタビューしました。
トロワグロ・ファミリーとワイズマン監督との出会い
── ワイズマン監督が「トロワグロ」での食事に感激して、この映画を撮りたいとオファーしたそうですね。この映画が撮られた経緯について、ご説明いただけますか? ワイズマン監督からのオファーの内容はどのようなものだったのでしょうか? セザール・トロワグロさん(以下セザール) ワイズマンさんはうちのレストランに食事をしにいらしたのですが、私は彼が誰か知らなかったんです。ホールのテーブルを回ってお客様にご挨拶をしに行き、コメディ・フランセーズ(国立劇団)のディレクター夫妻のテーブルにうかがいました。そのテーブルにワイズマンさんも同席していました。彼は最初何も話さず、じっと私を見て、最後に「ここであなたに映画を撮ってあげます」と言いました。 私はどなたか知りませんでしたから、「ありがとうございます、でもすぐにお答えできませんので」、と一旦は保留しました。とても高齢でしたので、もしかしてボケている方なのかなと思ったんです(笑)。でも、他のお客様にご挨拶したあと、いや待てよ、と思ってGoogleで調べてWikipediaをみて、ワイズマンさんがどういう方なのかわかりました。全然、ボケた老人ではなかったんです。 それで彼のテーブルに戻って、どなたか存じ上げず失礼しましたと詫びて、コンタクトを取り合って、映画撮影が可能か話し合いましょうと言ったんです。そして、数週間後にプロジェクトのメッセージを受け取りました。 ── 2022年から撮影がスタートしたとのことですが、どのくらいの期間、撮影クルーがレストランにいたのですか? お客様を迎えつつ、撮影するのは大変だったのではないですか? セザール いいえ、変動はありましたが、撮影チームは基本的にカメラマン、音響担当、そしてフレデリック(ワイズマン)の3人だけでした。彼らは全然邪魔ではありませんでした。店は広いですし、およそ6週間撮影していましたが、徐々に彼らがいるのが日常になっていきました。