ドコモのネットワーク運用拠点2024年最新版、能登半島地震の経験を踏まえた設備やSNSを分析する取り組みも
インフラとなっている携帯電話サービス、それを支えるオペレーションセンターでは、平時から機器に異常がないかモニタリングするなど、障害が発生しないよう、発生してもすぐに復旧できるような体制が取られている。また、近年発生した災害などを踏まえたものや、AIなど最新技術を活用したものなど、日々アップデートが重ねられている。 【この記事に関する別の画像を見る】 今回は、NTTドコモのオペレーションセンターでの最新の取り組み事例や、屋上に設けられた災害対策機器などをご紹介する。 ■ 遠隔で監視・故障対応、テレワーク環境も整備 ドコモのオペレーションセンターは、東日本と西日本の2拠点で運用している。通常は、それぞれの管轄に分かれて対応しているが、災害時などでは互いの管轄を超えた対応ができるような体制が作られている。たとえば、九州で台風被害が発生した際には、東日本側が九州またはほかの西日本エリア管轄のエリアを担当し、負荷が偏らないようになっている。 オペレーションセンターでは、ネットワークの監視と故障対応、ネットワークのコントロールを担当。さまざまな設備や機器の状況を監視し、故障があれば遠隔で対応し、早期復旧を図る。災害時には、消防や警察などへの通報(緊急呼)や被災地への安否確認や見舞い電話(見舞い呼)など集中するトラフィックをコントロールするために通信を適切に制限する。 ネットワークの監視では、設備から発生するアラームや警報から異常を確認する方法のほか、サービスのトラフィック情報から検知する方法、SNSでの投稿から異常を確認する方法などがある。これまでの対応から蓄積したノウハウをもとに、通信量などさまざまな数値を平常時と比較しトラブルがある箇所を特定することで、機器からのアラートがなくても障害を把握し早期復旧を目指す。 SNSの投稿では、“ドコモ”のキーワードと通信関係と思われる投稿を取得し、分析する。障害ではない“繋がりにくい”投稿なども含まれているといい、そのような投稿は各社のエリア対策関係部署へ共有し、環境改善に向けて対応していく。 ■ 自動化やAIを活用した取り組み 業務自体に大きな変化はないが、素早い対応を進めるため、可視化や自動化、AIの活用が進められている。センターでは、機器からのアラームやトラフィック状況、機器の構成情報などをビッグデータ基盤として持ち、それをAIを含めたさまざまな基盤で統合的に分析することで、業務改善が図られている。 故障が発生した場合、まずはアラームを検知し状況を把握、周知広報とともに故障箇所を突き止め、対応し正常かどうかを確認する。すみやかな故障箇所の特定にあたってはこの可視化する基盤を活用することで、故障が疑われる箇所の特定に必要な時間を最大90%短縮できる。また、復旧までの全体の時間をコアネットワークの場合に約60%短縮できる。 また、各種対応業務の自動化も進められている。たとえば、設備のアップデートでは、これまで夜間に人の手で行っていた業務を自動化し、正常に動作しているかの確認まで自動的に進められる。 年々複雑さを増す設備への対応に関しては、可視化や自動化とともにAI技術も活用する。可視化基盤と自動化基盤、AI基盤がそれぞれ連携することで、より快適なネットワーク環境の構築を目指す。 ■ 能登半島地震での改善点 2024年1月に発生した能登半島地震では、基地局までのアクセス路が寸断され、基地局までたどり着けないために復旧に時間がかかったケースが多かった。ドコモでは、海の上から地上をエリア化する船上基地局など最新技術を使った災害復旧対応を進めているが、能登半島地震を受けて新たな復旧機器を導入した。 伝送路障害に対しては、低軌道衛星「Starlink」を導入し、5月から全国での運用を開始。停電に対しては、長時間の運用が可能なインテリジェントタンクシステムを導入した。Starlinkは、従来の応急復旧機材に比べ可搬性に優れており、基地局車が入れない場所でも復旧を目指せる。インテリジェントタンクシステムは、大容量の燃料タンクを外付けすることで、一度の給油で長時間電源を確保できるもの。 これらの機器は、実際に9月の奥能登豪雨での復旧にも役立てられた。 同社では、災害復旧機器だけでなく、他社や自衛隊などとの連携や共同訓練、自治体との連携協定などソフト面でも対応している。今後は、基地局のバックホールとしてのStarlink導入や、成層圏通信プラットフォーム(HAPS)による被災エリアの救済を進めている。 ■ オペレーションセンター上にある「大ゾーン基地局」 災害時に活躍する設備として、同社では「大ゾーン基地局」「中ゾーン基地局」を設けている。それぞれ、被災した基地局エリアをカバーするための基地局として設置されている。 大ゾーン基地局は、全国105カ所に設置されており、高層ビルの上など高いところから半径7kmをカバーエリアとして運用される。通常時は運用されていないが、広域で被災し一定数の基地局で停波した際に、大ゾーン基地局で広範囲をエリアカバーする。 一方、中ゾーン基地局は、全国に2000局以上展開されている。大ゾーン基地局とは異なり平時でも運用されているが、災害時にはアンテナの角度などを調整し近隣の基地局エリアをカバーできるようにされている。通常の基地局と比較して、電源喪失時に24時間以上運用できる性能や伝送路の多重化など、さまざまな自然災害に対して強靱性を持たせている。 同社のオペレーションセンターが入るNTTドコモ品川ビルの屋上にも、この大ゾーン基地局が設置されている。都内にはこのほか溜池や立川など6カ所に設置され、災害時には人口集中エリアを中心に広範囲をカバーする。 通信障害が起こらないに超したことはないが、さまざまな要因で障害は発生してしまう。また、災害時には能登半島地震のような地域特有の事情や規模の大きさなど、復旧に困難が伴う場合もある。同社では、平時から異常時を踏まえた対策を進め、また日々アップデートを重ね、“通信を絶やさない”よう取り組んでいる。
ケータイ Watch,竹野 弘祐