新幹線の自由席乗車率が繁忙期で200%に迫っても、経営効率が下がるナゾ
コロナ禍に導入されたオフピーク定期券の数値目標はいまだ達成されていない。繁忙期の混雑緩和のため新幹線の料金を値上げしたが効果は未知数だ。経営効率を上げるために取り組んだオフピーク構想の全貌に迫った。本稿は、枝久保達也『JR東日本 脱・鉄道の成長戦略』(KAWADE夢新書)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 通常の定期券は値上げしつつ オフピーク定期券は大胆割引 コロナ禍でJR東日本が打ったさまざまな取り組みのうち、もっとも大胆で革新的だったのは、2023年3月に導入された「オフピーク定期券」なのかもしれない。 通常の定期券を1.4%値上げしたうえで、ピーク時間帯(駅ごとに設定)は利用できないが、10%の割引が適用されるオフピーク定期券を新設するというもの。ピーク時間帯の利用を5%削減するのが目標だ。 JR東日本がオフピーク定期券の構想を明かしたのは、2020年9月のことだった。 日本の鉄道運賃制度は「総括原価方式に基づく上限認可制」を採用しており、鉄道の運行に必要な経費や人件費、減価償却費、法人税など諸税の合計を「営業費」とし、これに「支払利息」と「配当金」などを加えた合計を「総括原価」とする。 運賃(新幹線は特急料金含む)は「総収入」が総括原価を超えない範囲で認可され、この「上限運賃」の枠内で「実施運賃」を決定する。 つまり、オフピーク定期券の割引率を上げることはできても、それ以外の定期券の値上げは認められないのだが、国土交通大臣の諮問機関である交通政策審議会が、2022年に「総収入を増加させない範囲での運賃設定」を認める答申をしたことで、実現の運びとなった。
なお、JR東日本はオフピーク定期券に先がけて2021年3月、通勤定期券でピーク時間帯の前後1時間に入場するとポイントが還元される「オフピークポイントサービス」を導入した。 オフピーク定期券のトライアルとして1年限定のキャンペーンだったが、延長をくり返し、2024年現在も実施している。 ● 収入の37%でしかない定期利用者が 輸送量の61%を占めている JR東日本の輸送量(人キロ)に占める通勤・通学定期券の割合は、コロナ前の2018年度は65%、2023年度はやや下がって61%だが、いまだに利用の半分以上は定期である。収入に占める割合は、2023年度で37%。かつてほどではないが輸送量と収入の格差は大きい。 一般的に定期利用比率が大きいほど、通勤・通学ラッシュ時間帯の利用が多いことを意味する。定期利用者はボリュームとして大きく、1カ月単位で前払いしてくれる優良顧客であることは間違いないのだが、経営の効率という観点から見ると手放しでは喜べないのが実情だ。 というのも、当たり前の話ではあるが、鉄道施設や車両は運行本数が最多となる朝ラッシュにあわせて準備しなければならない。 たとえば、朝ラッシュピークは2分間隔(毎時30本)、日中は5分間隔(毎時12本)で運行する路線では、半分以上の車両はラッシュ時間帯しか出番がなく、朝が過ぎれば車庫を陣取ってお昼寝だ。