もしあの時、W113型SLを買っていれば……。憧れに終わってしまったメルセデスへの想い
いちばんの答えは「両方とも手にいれる」ことだろうが、そこまで思い切りのいい決断もできなかったし、経済的にもきつかった。 メルセデスの人たちは「SLを先送りにすればいい」と口を揃えていた。その時は「そうだよな!」と思った。 だが、気持ちが強く盛り上がったタイミングを逸すると、容易に元には戻らない。結局、憧れのSLは憧れだけに終わってしまった。 今でも、W113 型SLは大好きだ。美しくエレガントな姿には惹かれ続けている。街で出会ったり、いい感じの写真を見たりすると、むず痒いような気持ちになる。 世界中で出会った、W113型SLのある素敵なシーンの数々が脳裏に浮かんでくる。
一方のSLKはというと、きれいさっぱり過去のものになってしまっている。 今からSLを買うことはもうないが、SLへの憧れや想いが、僕の心の中から消えることはないだろう。 この原稿を書いているときも、SLの写真あれこれに眼を奪われて、かなりの時間をロスしてしまった。
● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト
1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。
文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽