新聞・テレビはなぜ「役に立たない」と見なされるのか?選挙期間中にこそ高まる政治への関心、なのに報道は抑制的に
(西田 亮介:日本大学危機管理学部教授、社会学者) ■ なんとも後味が悪いのは…… 【写真】兵庫県知事選で落選が決まり、一礼する稲村和美氏 名将野村克也監督によって広く知られるようになった「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」とは、かつての平戸藩主松浦静山の言葉だが、兵庫県知事選挙の結果には多くの人たちが得も言われぬ、なんとも言えず後味の悪い感想を持っているようだ。 当然のことであろう。ただでさえ地方議会の不信任決議は、衆議院51人以上で提起でき出席議員の過半数で成立する内閣不信任決議と比べても、議員の3分の2以上の出席が求められ4分の3以上の賛成で成立するという条件のため、よりハードルが高いものとなっている。 地方議会は国政と異なり、首長も議員も直接に有権者の投票で選ばれる二元代表であることがその背景にあると考えられる。 その不信任決議が全会一致で採択されたことを契機に議会の解散ではなく、失職を選んだ知事が再び選ばれたのだから困惑して当然だ(そもそも本人にとっての合理性以外の理由だとすれば、なぜ失職を選び、なぜ再挑戦したのだろうか……)。 ◎【詳細】兵庫 斎藤知事への不信任決議案 全会一致で可決 | NHK
■ 「SNSが決め手」はあくまでイメージ すでにネットメディア、マスメディアに、そして多くの解釈や論評、「反省」が飛び交っている。 しかしそもそもの話だが、選挙の勝因、敗因に関して、根拠がある「勝因」というのはそれほど明らかではないし、簡単ではない。大手メディアや識者も、ともすれば「SNSや動画が勝因」などといっている(少し誠実である場合などには「?」などを書き足してみていたりする)。 だが、大差がつくような場合はさておくとして、多くの場合、勝因を、特に単一の要因で説明することはかなり難しいと考えられている。 速報的な記事や論評で取り上げられているのは、あくまで「目立った特徴」に過ぎない。「目立った特徴」が単一の理由なのか、複合要因の可能性はないのか、普遍性の有無などということはほとんど顧みられないままに論じられている。 多くの人、そしてメディアは「SNS、動画が勝因」と目している。少なくとも、そのように認識させたい見出しのニュースや速報的論評は枚挙にいとまがない。 ◎兵庫県知事選 出直し選挙で斎藤氏が再選 “SNSが原動力に” | NHK ◎兵庫県知事選、SNSが決め手に? 「偏っている」「デマにだまされた」…“不信”テレビのあり方 『news zero』の課題と悩み|日テレNEWS NNN ◎兵庫県知事選のSNS影響に与野党が危機感「党全体でネット対策を」「既得権益への嫌悪」|産経ニュース しかし冷静に考えてみてほしいのだが、最近の選挙において、SNSや動画は上手下手はあれどもほとんどの主力候補が使っている。 「SNSが決め手」などと気軽に口にするが、いったい何が決定打になったのか明記し、実証している記事はほとんどない。 SNSにも種類、テキスト/動画、フォロワー数、投稿量や動画であれば尺の長さ、発信の戦略や戦術など多様な側面がある。そして、それらの要素(変数)が、例えば認知の拡大や得票数、態度変容者の数など、選挙のいったいどの要素(変数)、あるいはライバル陣営との決定的な差別化に影響したのだろうか。 そのような丁寧な検討は大手メディアからインフルエンサー、オピニオンリーダーまでほとんどなされておらず、たいてい印象やイメージに引きずられているのである。 なぜなのか。