鉄道・バスの利便性をどう高める?「採算重視」で苦境に立つ日本の公共交通が学ぶべきオーストリアのデータ活用術
■ 公共交通のポテンシャルを見極める客観的データとなる こうした限界もあるが、PTSQCの最大の長所は、デジタル化された時刻表データ(GTFSデータ)と、道路ネットワークのデータがあれば、公共交通のポテンシャルを検討するのに十分な客観的エビデンスを、地理情報システム(GIS)という標準化された汎用性の高いシステムの上でできることである。 GISは、日本でも、コンサルタントや研究機関などで広く使われているもので、商用のArcGISやオープンソースのQGISがよく知られている。 クラス分けは、列車種別などが国や地域によって異なるから、地域ごとのバージョンをつくる必要が出てくる。 この点は様々な検討が必要で手間がかかるが、ここをいったんクリアしてしまえば、あとはデータがあれば機械的に計算可能である。 とはいえ、日本の場合はデータに難がある。道路のネットワークデータや鉄道駅・停留所の場所のデータは、国土交通省が公開する国土数値情報など各所から入手できるので、あまり問題にはならない。 課題は時刻表データの方である。時刻表データの標準形式であるGTFSデータは、バスのデータこそ近年は整備が進んできたが、日本全国のデータのありかを探すのは容易ではない。 専門家有志によるまとめサイトもあるが、ボランティアには限界がある。 さらに、鉄道のGTFSデータとなると、JRなど主要路線ほど、出版社が有償で提供というのが基本である。これではポテンシャルを推定するにもデータのために多大な費用がかかってしまい、大きな障壁になる。 GTFS形式の時刻表データは、鉄道、バス、そしてさらにフェリーなども含めて、国が公的なものとして最新のものを公開するなどの方法で、誰もが無償で使える体制を作る必要があるだろう。 逆に言えば、こうした時刻表データの障壁さえ取り除くことができれば、PTSQCの計算自体は日本でも容易に可能である。 これと他のデータを「重ね合わせる」ことで、公共交通の第二の機能である「社会的機能」や、第三の機能である「自動車の諸問題の緩和機能」の現状を分析できるようになる。 さらには、これらの機能のポテンシャルを、客観的なエビデンスから検討ができるようになるのである。
柴山 多佳児