鉄道・バスの利便性をどう高める?「採算重視」で苦境に立つ日本の公共交通が学ぶべきオーストリアのデータ活用術
>>「公共交通のポテンシャルが地図でわかるオーストリア、ローカル線「赤字か否か」の議論から脱却できぬ日本が欠く発想」から続く 【図表】公共交通サービスにアクセスできない人口の割合を落とし込んだオーストリアの地図 (柴山多佳児:ウィーン工科大学交通研究所 上席研究員) ■ 公共交通サービス水準の地図を他のデータと重ね合わせる 地図上に表現できるということは、他のさまざまな地図上に表現可能なデータと重ね合わせることができる。 ※地図の詳しい解説は前回記事「公共交通のポテンシャルが地図でわかるオーストリア、ローカル線「赤字か否か」の議論から脱却できぬ日本が欠く発想」をお読みください。 ここが重要なポイントで、このPTSQCと他のデータの地図上での重ね合わせから、第二の機能である「社会的機能」や、第三の機能である「自動車の諸問題の緩和機能」を加味した上で、公共交通のポテンシャルを推し量ることができるようになるのである。 地図上に表現できるデータは様々ある。その最たるものは人口だろう。 日本でも国土地理院が国土数値情報として人口のメッシュデータを公開している。これと重ね合わせれば、人口が多いのに公共交通サービス水準が低い場所を特定して、そこの公共交通を強化することができる。 またメッシュごとの人口密度も計算できるが、同様にして、公共交通沿線の人口密度を高める「コンパクト化」をどこで推し進めたらいいかの判断材料にもなる。 人口と同様に、就業者数も同様に表現できる。日本では経済センサスに丁目ごとの就業者統計があるが、これを使うと考えればよい。 就業者数は多いのに公共交通のサービス水準が低いところは、公共交通利用を伸ばすポテンシャルがある。 以下のグラフと地図は筆者がコーディネータを務めたオーストリア政府からの受託研究の成果の一部である【グラフは次ページへ】。
■ 「公共交通にアクセスできない人がどれくらいいるか」も地図上に落とせる グラフは、平均的な平日に、オーストリアの人口の何パーセントがどのランクに属しているかを、公共交通サービスの本数が増える学期中と、サービスが一部減少する夏休みなどの期間中についてそれぞれ、グラフで示したものである。 これを見れば、すでに水準の高いA~Dに住む約45%(学期中、以下同じ)の人口を対象にさらに力を入れるよりは、35%ほどの人口に該当するE~Gを底上げしたほうが、より効果がありそうなことがわかるし、15%の「ランク外」の人口に対しても手を打つ必要があることがわかる。 以下の図は、オーストリア全体で、A~Gのランクに属さない、つまり公共交通サービスにアクセスできない人口の割合を、市町村ごとに計算して可視化した例である。 15%の「ランク外」の人口が、国内のどのあたりに分布しているかがわかるようになる。 また、土地利用も地図上に表現できるデータの一つである。実際の土地利用でもよいし、日本では用途地域とよばれる土地利用規制でもよい。 市街化されているのに公共交通サービスの水準が低いところがある一方で、公共交通のサービス水準は高いのに、市街化調整区域のように市街化されていないところがあるのであれば、公共交通のネットワークを改変することでポテンシャルを高めることができる。 公共交通のサービス水準が高いところが、駐車場や資材置き場のような使われ方をしているのであれば、土地利用のありかたを考え直す必要があることがわかる。 また、学校や病院、行政機関などの重要施設(Point of Interestの頭文字からPOIと呼ばれる)で、公共交通のサービス水準が低いエリアのものがあれば、同様に公共交通のネットワークを改変することを考えるべきだとわかる。 あるいは、駅や停留所の配置を見直すという選択肢もあるだろう。逆に、こうした施設を新たに設置する場合は、公共交通のサービス水準が高い場所を選ぶとよい。