「英断すぎる」と拍手喝采! スタバの「賛否両論の紙ストロー」廃止が「消費体験を低下させる”意識高い施策”」からの転換点になる理由
そこからシュルツは「本物の体験を味わえる」というブランディングは掲げたまま、しかし一方ではその内実は、顧客の要望に合わせた店舗を作り上げていく。 例えば、同社が「コーヒーの質」にいかにこだわっているのかを訴求しているにもかかわらず、その主力商品が「フラペチーノ」であることは、その代表例だ。 もともとイタリアにはこんなに甘いドリンクはない。その点で、まったく「本物」ではない。けれど、シュルツはこうした甘いドリンクが女性を中心とした顧客に求められていることを知り、貪欲にメニューに取り込んでいった。一方で「コーヒーへのこだわり」は訴求し続け、「本物にこだわる」ブランディングは捨てていない。
ある意味で「矛盾」を持つともいえるが、そうした「本音と建前の同居」がとても上手なのが、スタバなのである。 ■スタバの動きに、他社も合わせていくことになる? こうしたスタバの「二枚舌」は、これまで批判されることもあった。 『お望みなのは、コーヒーですか?』で著者のブライアン・サイモンは、スタバが「本物のコーヒー」をブランディングとして押し出しながらも、内実はフラペチーノのような「偽物の商品」を出していることを痛烈に批判している。確かに、そこにはある種の「したたかさ」があり、見る人が見れば面白く見えないかもしれない。
しかし、今回のプラスチックストローへの軟着陸も含めて、ある程度の「意識の高さ」を保ったまま、しかし「顧客の要望」も聞き入れるような、そのバランス感覚は健全にビジネスを成功させるためには必要なことではないか。 少なくとも、ウォルマートがある種「反動」的にDEIを取り下げるよりも、どこかバランスが取れているというか、健全な印象がある。 もちろん、アメリカと日本ではスタバの事情は大きく違う。経営は日本法人よりも不調だし、パレスチナ問題に端を発した不買運動など、複雑な問題を孕んでいることも確かだ。
けれども、日本ではスタバは依然として堅調で、その背景には今回のストローの件でも明らかになったような「本音と建前のバランスのうまさ」があると思う。 少なくとも、この転換は、「意識高い施策」が分水嶺に立たされている現在、かなり興味深い先例になっているし、今回の消費者の反応を受けて、他の企業も追随していく可能性は高いと言える。 たかが紙ストロー、されど紙ストロー。スタバの方針転換は、今後、想像以上に大きな影響を他の企業に及ぼしていくことだろう。
谷頭 和希 :都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家