「愛護」だけでは限界がある…“動物虐待”防止のため「日本の法律」に必要な視点
動物の「福祉」や「尊厳」を守るヨーロッパの法律
イギリスの「動物福祉法」やドイツやスイスの「動物保護法」には「動物福祉(アニマル・ウェルフェア)」について記載されている。 動物福祉とは、動物にとって肉体的・心理的な苦痛やストレスが少なく、快適で自由な状態や環境が望ましい、という考え方。 「動物愛護」の場合、動物を「愛護する」人間や社会の価値観や利益が考慮の対象に含まれる。対して、「動物福祉」はあくまで “動物たち自身”にとっての苦痛の少なさや幸福の多さに配慮する考え方であることが、大きな違いだ。 この違いを表しているのが、ペットを虐待した飼い主の処遇。日本の場合、動物愛護法違反を問う裁判の過程で一時的にペットを「押収」することはあるが、飼主に所有権が残される以上、執行猶予となった場合等には、飼主に返還される。 一方で、ドイツやスイスなどでは虐待した飼い主からペットが「没収」される。イギリスの場合には「ペットを飼育する権利」そのものがはく奪されることもあるという。 「動物虐待は繰り返される場合が多いため、日本でもペットの『没収』が可能になるよう法改正をすべきと考えます。そのためには憲法の壁を乗りこえる必要がありますが…」(牧野教授) また、動物愛護の考え方では人間の主観が考慮されるため、動物がいくら苦痛を感じていても、飼い主が「これは虐待ではなく必要な躾(しつけ)だ」と主張することが通じてしまう。しかし、動物福祉の考え方であれば、飼い主の主観に関係なく「動物が苦しんでいるか否か」という客観的な基準に基づいた対応が可能になる。 「ただし、動物愛護は駄目な考え方だと主張したいわけではありません。愛護と福祉、両方を合わせた考え方が必要です」(牧野教授) なお、スイスでは「動物の尊厳」も重視されている。尊厳とは、当人の主観に関わらず、他者が侵してはならない価値のことを指す。 「たとえば、犬の顔に落書きすることは、その犬自身が不快に感じなければ『動物の福祉』からは許容されます。しかし、『動物の尊厳』の観点からは認められない行為です」(牧野教授)