「愛護」だけでは限界がある…“動物虐待”防止のため「日本の法律」に必要な視点
「野良猫」か「ノネコ」か…人間の都合で扱いが変わる
動物を「命あるもの」と規定する動物愛護法も、そもそもは、動物を傷つけたり虐待する行為は「社会の風紀」を乱す、という問題意識から制定されたものだ。つまり、あくまで人間のための法律という側面がある。 一方で、動物愛護法の目的には「人と動物の共生する社会の実現を図ること」も含まれている(第1条)。 牧野教授は「人と動物が共生する社会を実現するためには、多くの矛盾を乗りこえなければなりません」と語る。 現行の法律の「矛盾」の一例が、「野良猫」と「ノネコ」の扱いの違いだ。 野良猫は動物愛護法によって「愛護動物」とされており、みだりに殺したり傷つけたりした人間には、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金が科される。やむを得ず殺処分しなければならない場合にも、できる限り苦痛を与えない方法で行う必要があるとされている。 一方で、「ノネコ」は鳥獣保護管理法により狩猟鳥獣とされ、捕獲や殺傷することが認められている。また、殺傷方法については明記されておらず、虐待や虐殺することも違法ではない。 猫は鳥類や小動物を捕まえて殺傷してしまうため、環境省は、希少な生物種を守るためにノネコの捕獲を全国で行っている。また、2023年には、山中で刃物などを使って猫を殺した広島の大学院生が、法廷で「愛護動物ではないノネコだと思った」と主張して容疑を一部否認した事例などもある。 環境省はパブリックコメントへの回答で、「野生」を「当該個体が元々飼育下にあったかどうかを問わず、飼主の管理を離れ、常時山野等にいて、専ら野生生物を捕食し生息している状態」と定義している。一方で、市街地または村落を徘徊している猫や犬は「野生」ではなく、鳥獣保護法による管理の対象にならないという。 だが、市街地や村落に住んでいる人間が、飼っていたペットを山や森に捨てる事例は多い。つまり、もともとは人間に飼われていた猫であっても、町中ではなく山に捨てられた途端に「ノネコ」となり、「愛護動物」から「狩猟鳥獣」に変わって捕獲・駆除の対象になる。 「『野良猫』も『ノネコ』も、生物学的・生態的にはまったく同じ存在です。人間の都合によって法律上の扱いがここまで変わってしまうのは、奇妙で、理不尽だと思います。 私は、鳥獣保護管理法の『狩猟鳥獣』からは猫や犬を削除し、山中を含めて野生化した猫や犬は動物愛護法によって管理すべきだと考えます。 そもそも、動物愛護法の正式名称には『管理』という単語も含まれています。仮に犬や猫が人間に危害を及ぼす場合には、動物愛護法によっても捕獲は可能です。 鳥獣保護法は生物多様性の確保や保護や、生態系の保護も目的にしており、猫などの保護との間にジレンマがあることは確かです。それでも、現状の『野良猫』と『ノネコ』の区別には人間の身勝手さを感じてしまいます」(牧野教授)