京都・奈良で観光“復活”の兆し 4月、5月の「どん底」からなぜ?
観光客はどこから?
では、観光客はどこから来たのでしょうか?
奈良ホテルによると、「従来は6~7割が首都圏からの方々でしたが、いまは大阪や兵庫など関西のお客様が7割弱を占め、首都圏は1割程度です」としています。つまり、近隣県からの旅行客が多くを占めているというのです。 大手旅行代理店のJTBの担当者によると、夏休み期間の関西発の旅行は例年なら一番人気は東京・ディズニーランド方面ですが、今年は住まいに近い関西の観光地が首位だと言います。こうした「近場」への旅行人気が高いのは、関西だけではなく全国的な傾向で、たとえば、首都圏発なら伊豆・箱根など、中部発なら北陸や飛騨地方などが人気だそうです。 なぜ「近場」への旅行が人気なのでしょうか? 広報担当者は「遠方だと、長距離の移動による感染の不安もあるし、旅行に行っても現地では歓迎されないのではないか、という心配もあるのでは」と、新型コロナウイルスに関する懸念があると推察します。また、京都府などの各自治体が、自治体内や近隣府県の住民に対して宿泊費の割引や各種クーポン券などを提供する需要喚起策を実施していることも、「近場」需要の後押しに一役買っていると見ています。 京都府内の旅行申し込みについては「例年に比べてお客様がまだ少ない一方、天橋立など京都府北部の日本海に面した地域や、福知山市などの京都府中部地域は例年よりも人気が出ています」とのこと。理由について、「人混みや3密を避けられそうな地域を目的地に選んでいるのではないでしょうか」と予想します。
本格的な需要回復、見通しは?
国内観光業の現状について、大和総研経済調査部エコノミストの鈴木雄大郎氏は「国が緊急事態宣言を発出していたころの最悪期は脱し、緩やかに回復しつつありますが、厳しい状況はまだまだ続いています」と分析します。 現状の「近場」需要については、「短期的には「近場」需要があるにこしたことはないのですが、地元の人が地元観光地のリピーターとなって何度も観光するのか、と言われると想定しづらい面もあります。日本国内の宿泊者数の約8割は国内の観光客が占める状況を考えると、国内観光市場の本格的な回復には、まず何よりも東京や大阪などの大都市を含む全国各地から人々が観光地に多数集うような状況になることが必要」として、「近場」需要の効果は限定的なものだと踏んでいます。 また、「感染拡大前の状況にまで戻るには、残る約2割のインバウンド需要の回復も必要ですが、日本から海外への渡航も制限されているため、海外旅行に行けないので国内旅行に切り替える人が増えれば、インバウンドの減少分を多少まかなう可能性もあるかもしれません」とも予想します。 7月22日、国は観光需要喚起策の「Go Toトラベル」キャンペーンを開始しました。岩手県の達増(たっそ)拓也知事が「早すぎたということで失敗と言っていい」と語るなど、批判の声もあがっています。これに対し、鈴木氏は「政策自体は評価できます。補助の割合は50%であり、残りは観光客が自己負担するので、予算額1兆3500億円以上の消費効果が得られます。全予算を年度内に消化した場合、その経済効果は関連業界への波及効果も含めて約4兆9000億円が見込まれ、影響はかなり大きいといえるでしょう」と期待します。 その半面「キャンペーンの効果が顕著に現れるかどうかは、今後の感染状況次第」とも。「この先、感染が収束すれば国内観光市場の回復ペースは早まりますが、拡大が続くと消費者は旅行へ行くことに慎重になり、需要は伸び悩むかもしれません」 (取材・文:具志堅浩二)