在宅で農業、AIが実を見極めロボットを遠隔操作してピーマン収穫…障害者雇用と農家の人手不足解消に期待
障害や病気で外出が困難な人らがパソコンで遠隔地にあるロボットを操作し、農業用ハウスで収穫作業に取り組む実証事業を福岡市が進めている。在宅で働ける環境づくりを目指し、宮崎県新富町のベンチャー企業AGRIST(アグリスト)と共同で実施。障害者の雇用促進とともに、農家の人手不足解消にもつなげたい考えだ。(貞末ヒトミ) 【写真】遠隔操作でピーマンを収穫するロボット
「やった! とれました」
鹿児島県東串良町のハウスにあるロボットを福岡市から遠隔で操作し、収穫したピーマンが画面に映し出されると、男性(27)は声をはずませた。
事業では、AGRISTが手がける収穫ロボットを活用。カメラを搭載しており、AI(人工知能)が画像を分析して実を見極め、収穫候補のピーマンを枠で囲んで知らせる。操作者が画像を確認して「とる」を選択すると、ハサミが付いたアームが伸びて実の少し上をカットして収穫する仕組みだ。
障害者雇用に力を入れる第3セクター「九州地理情報」(福岡市)に勤める男性ら身体や精神に障害がある6人が週1回交代で作業を担い、うち4人は在宅で行っている。
自閉症や注意欠陥・多動性障害(ADHD)を持つ男性は「農作業は初めて。画面操作がシンプルでわかりやすく、自分に合っていると感じた」と話す。
ピーマンを生産する大塩悟司さん(40)は「地方は人手不足。障害のある方も自宅にいながら働くことができれば、夜間などに収穫してもらうことも夢じゃない」と期待を込める。
市は重度障害者の就労促進につなげようと、2022年度から分身ロボット「オリヒメ」を活用している。スピーカーやマイクを通して遠隔で会話ができるのが特徴で、店舗での接客や会社の受け付けなど主にコミュニケーションを中心とした業務で利用してきた。
ただ、障害の特性によってはコミュニケーションを苦手とする人もいるため、職種の選択肢を広げようと、昨年11月から今回の実証事業を進めている。
AGRISTのロボットは自動でもピーマン1個を平均約1分で収穫する能力を持つが、判断に悩んで止まったり、残すべき茎を切ってしまったりといった課題も抱えていた。人の判断を学習することで、作業時間の短縮や高精度化を図る狙いもあるという。