フランツ・フェルディナンドが語る、新たな黄金期に導いた「らしさ」と「新しさ」の両立
デビュー・アルバム『Franz Ferdinand』(2004年)のリリースから20年が過ぎたフランツ・フェルディナンド。2022年に新曲入りベスト・アルバム『Hits To The Head』を発表、そのツアーで来日公演も行なわれたので不在感はまったくないが、純然たる新作は5作目の『Always Ascending』(2018年)が最後で、お預け状態が続いていた。長年在籍したポール・トムソンが脱退、新ドラマーとしてオードリー・テイトが加入してから初めてのアルバム『The Human Fear』がいよいよ到着。オリジナル・メンバーのアレックス・カプラノス(Gt, Vo)、ボブ・ハーディ(Ba)を核に、Miaoux Miaoux名義での活動でも知られるジュリアン・コリー(Key, Gt)、1990sのディーノ・バルドー(Gt)を擁する5人組となった彼らは、今まさに新たな黄金期を迎えている。 【画像を見る】ローリングストーン誌が選ぶ「歴代最高の500曲」 続くインタビューでアレックスが言っている通り、新作では“フランツ・フェルディナンドとしてのアイデンティティ”を守りながら、またしても時代の変化に呼応してサウンドをアップデートすることに成功。ツアーを経てバンドの結束力が増してきたタイミングでスタジオ入りし、皆でアイディアを出しながらレコーディングを楽しんだ様子が伝わってくる、躍動感溢れるアルバムに仕上がった。彼らに“踊れるリフ・ロック”のダイナミズムを求める向きにも、ひねりが効いたソングライティングの妙を期待するファンにも歓迎されそうな、バランスが良く無駄のない作品だ。 どの曲にも背景に何らかの恐怖があると気付いたという本作のソングライティングと、これまで以上に理想のサウンドを追求したというレコーディングの様子、カバーもしたチャペル・ローンなど、お気に入りの若手ミュージシャンについて、アレックスにたっぷり語ってもらった。
「恐怖」は生の実感を与えるもの
─前のアルバム、『Always Ascending』からは約7年と、これまでで最長のブランクがありました。その間にコロナ禍もありましたが、ここまでの数年間は、あなたにとってどんな時間でした? アレックス:すごくポジティブな時間だったけど、時にはフラストレーションを感じることもあったね。確か前作をリリースしたのが2018年の前半で、そのツアーが終わったのが2019年の終わり頃。じゃあ次の作品に取り掛かろうということになって、まずはベスト・アルバムを2020年前半くらいに出して、新作を2020年末に出せたらいいなと考えていたんだけど、パンデミックでベスト・アルバムのリリースが遅れて、ツアーも新作も後ろ倒しになり、あまりにも時間がかかりすぎることが正直もどかしかった。 でも今は時間がかかって本当に良かったと思っているんだ。なぜなら曲を客観的に見る機会を与えてくれたから。もしも改めて曲に立ち返る時間と、バンドを今のような状態に仕上げる時間がなかったら、今ほど力強い楽曲群にはなってなかっただろうと思う。パンデミック後に再集結してベスト・アルバムのツアーで世界中を回ったことで、バンドとしてものすごく強固になったからさ。だから実際にスタジオでレコーディングをする時点では、5人で1つの部屋でただ演奏するだけでいいという状態になっていて。現代のレコーディングは大好きだし、技術的にもいろんなことが可能で素晴らしいけど、5人で一緒に演奏する感覚や、そのときに起こる魔法を再現できる手段は存在しないからね。ベスト・アルバムのツアーや、レコーディングの前に起こった全てのことがなかったら、ここまでのレベルには到達できなかったと思うよ。 ─『The Human Fear』というタイトルについては、いろんなインタビューで訊かれていると思いますが。この興味深いタイトルをどうやって思いついたの? アレックス:恐怖についてのアルバムを作ろうとは思っていなくて、作り終わったあとに、これは恐怖についてのアルバムだと気づいたんだ。「Hooked」の歌詞を最後に書いたんだけど、この曲は「不安を覚えた。人間らしい恐れを抱いた」という一節で始まる。それで他の曲も見返して共通するテーマを探したら、どの曲にもその根底に何らかの恐怖があることに気づいたんだよ。「Doctor」は組織から離れることの怖さについて歌っていて、というのも僕は子どもの頃に喘息持ちで入院したことがあったんだけど、入院中の見守られている安心感が名残惜しくて、病気が治ってきても退院したくなかったんだ。「Night Or Day」の場合は関係を築くことに怖気付いていて、それが正しいことで素晴らしいことだとわかっているけど、それは同時に自分の人生の多くのものを犠牲にすることを意味していて、その一歩を踏み出すまでにいろんな怖さを克服する必要があるっていう曲。 「Bar Lonely」という、東京に実在するバーにインスパイアされた曲は、一つの関係が終わることについて描いている。新宿のゴールデン街にロンリーというバーが本当にあって、ボブと一緒に行ったんだけど、そこから、“一人になるために行くバー”っていうアイデアが浮かんできた。二人の主人公が、一人になるためにそのバーに一緒に行くんだよ。だからこの曲は、関係を終わらせることへの恐れを描いている……もう終わりだということは二人ともわかっているんだけどね。それから「The Birds」は社会的に拒絶されたり、仲間に受け入れてもらえなかったり、社会的な居場所がないことへの恐怖。そして「Black Eyelashes」は僕が自分自身のなかにあるギリシャ人的な部分を見つけようとするんだけど、先祖や歴史や居場所がない、根無し草的であることへの恐怖感について描いている。 とにかくどの曲も、背後にそれぞれ異なる恐れがあるっていうことが明らかになってきたんだよ。それと同時に思ったのは、恐怖は生きているという実感を与えてくれるものだってこと。人生における最高の出来事だったり、価値のあることを経験するためには、何らかの恐怖を克服することが必要なんだ。愛の告白にしても、好きな人をデートに誘うことだったりしても、あるいはもっとくだらないところで言うとホラー映画も、怖いけどゾクゾクするよね。ジェットコースターもそう。恐怖って普遍的で誰もが感じるものだ。でも同時に、恐怖に向き合うことで自分の性格や個性がわかるんだ。恐怖のない人生って、正直言って人生とは言えないんじゃないかな。恐怖を感じるときは気持ちが高鳴るときだから。恐怖っていろんなものに大いに関係があると思う。 もしかしたらこのタイトルは誤解を招きやすいかもしれないな。恐怖心を植え付けるようなアルバムだと思われるかもしれないけど、そうじゃないからさ。初期のブラック・サバスみたいなものを想像するかもしれないけど、全然違うよ(笑)。怖がらせるのではなくて、恐怖について考えたり、その本質だったり、それぞれがどういう恐怖と向き合っているのかってことだったりを取り上げているんだ。 ─『Always Ascending』ではフィリップ・ズダール、ベスト盤『Hits To The Head』に収められた新曲ではスチュアート・プライスをプロデューサーに迎えていましたが、新作では『Right Thoughts, Right Words, Right Action』(2013年)以来久々にマーク・ラルフが戻ってきました。人選のポイントは? アレックス:まずエンジニアやプロデューサーにはスタジオやレコーディング技術に関する知識を求めるというのは前提としてあるけど、それは基本的な部分で、僕が今プロデューサーに求めているのはそれ以上のものなんだ。個人的な繋がりがあったり、同じ空間にいたいと思える人、一緒にいて楽しい人、一緒にアートを作りたい、一緒に笑いたいと思える人なんだけど、マークにはそれがあるんだよ。すごく気が合うし、彼は友達だからね。 今回レコーディングした場所はスコットランドの僕のスタジオだった。最初のロックダウン期間中に僕らは各々で活動して、人によってはパン作りを学んだりしていたんだけど、僕はスタジオの音響を再構築したんだよ。音響の物理的性質を深く理解するために学生以来初めてイチから勉強して、本もいっぱい読んでさ。それでかっこいい音響になったんだけど、スタジオが規格外なんだよね。昔の画家のスタジオみたいな感じで、北向きの大きな窓と暖炉があって、バンドが演奏するスタジオの中にコンソールがあって部屋が分かれていない。ほとんどのエンジニアは……まあプロデューサーもだけど、特にエンジニアはそういう環境での仕事を嫌うんだ。なぜならほとんどのスタジオはアーティストのためというよりもエンジニアのために作られているから。でも僕のスタジオはミュージシャンのために作られているからエンジニアが適応しなくちゃいけなくて、本来はそれが正しいやり方なんだ。マークはすごく順応性が高くて冒険心もあるし、「それは正しくない」とか言うような人じゃない。進歩的で、いろんなテクニックを試すことにも前向きなんだ。