フランツ・フェルディナンドが語る、新たな黄金期に導いた「らしさ」と「新しさ」の両立
理想のレコーディングを追い求めて
─そして何はともあれ、強力な新ドラマーのオードリー・テイトについて訊かないといけません。フランツ・フェルディナンドの新ドラマーとして定着するまでの間、彼女の努力をずっとそばで見ていたと思いますが。 アレックス:まずオードリーは、人として素晴らしい。不思議なんだけど、彼女がバンドに加入してから多くの記者が「どうしてバンドに女子を入れたんですか?」って訊いてきた。でも僕らは別に女性を入れたわけではなくて、スコットランドで最高のドラマーを選んだら、それがたまたま女性だっただけで(笑)。驚くほどすごいんだよ。でも一緒にバンドをやるにあたって重要なのは技術的な能力だけじゃないんだよね。ジュリアン・コリーとディーノも、どちらも驚くほど凄腕のミュージシャンだけど、性格が良いっていうのも大きい。それは間違いなくオードリーにも言えることだよ。一緒にいて楽しいんだ。さっきのマークの話と同じ。彼女はユーモアのセンスも最高だし、面白いからツアー中も一緒にいて楽しいし、ポジティブで、それって技術面と同じくらいの影響があると思う。一緒にスタジオに入るのが楽しみになって、実際レコーディング中も楽しくて。そうやって楽しんでレコーディングすると、それを聴く人も多分楽しんでくれて……そういうのってどんなに暗いテーマでも関係なくて、作っているときの喜びは聴く人にも伝わると思うんだ。 オードリーは僕が最も好きなタイプのドラマーというかミュージシャンで、ものすごく強靭なアスリートのように、必要な瞬間になって初めてその本領を発揮するタイプだと思う。このバンドにとってグルーヴが非常に重要な要素なのは彼女もわかっていて、実際すごく長けているんだけど、それをひけらかすようなことはしないんだ。自分のすごさに気づいてほしくて主張するドラマーもいるけど、彼女は全体像を見ることができる。全体における自分の役割を理解するというのが大事だからね。このバンドの良いところは、誰かが前に出過ぎることがないところで、“全体のサウンド”という意識があるんだよ。 ─ジュリアン・コリーの存在感がこれまで以上に増したようにも感じました。レコーディングでの彼は、どんな役回り? アレックス:まずオードリーと同じくジュリアンも一緒にいて楽しいというのがある。今回はジュリアンと2人でアレンジを考えることが多かったな。それからジュリアンはスタジオを作る上でかなり大きな役割を演じてくれた。彼は素晴らしいミュージシャンというだけではなくて非常に有能なエンジニアかつプロデューサーでもあるからね。フランツ・フェルディナンドに加入する前にBBCで長く働いていたんだ。スタジオを再設計するにあたって、配線とか配置とか大いに助けてもらったよ。今回のアルバムにはかなり独特のサウンドがあると思うんだけど、それは、演奏面だけじゃなくて、より広い意味でサウンドについて考えたことが大きかったと思う。ジュリアンといろんな音のアイデアを発展させたんだ。 僕はマイクをすごく近づけて録ったドラムが嫌いなんだよ。だってドラムに耳を当てて聴いたりしないし、もしもそんなことをしたら聴き心地は最悪だし、馬鹿げてる。だからジュリアンと一緒に、5人が一緒にライブ演奏しながら、ドラムとマイクを離して録っても音がかぶらないように録る方法を考えたんだ。マークともいくつかテクニックを編み出して、マイクのセッティングなんかも、僕が知る限り他のスタジオでは見たことがないような置き方をした。ちょっと専門的な話になってもいいかい? ─どうぞ、進めてください。 アレックス:ギターは全部SDI入力で、アンプシミュレーターを使った。でも単にシミュレーターを通して録るんじゃなく、出てくるギターの音をちょっと工夫して鳴らして……マイクは遠くに置いて、それによってすごく自然でオープンなサウンドが得られたんだ。どこから着想を得たかと言うと、ブルーノートとかの古いジャズのレコードを見たときに、ジャケットの裏側にイラストでマイクテクニックだったり、ミュージシャンの位置なんかが描かれていたんだ。そこではマイクは常に1本なんだよ。サックスがドラムよりも少しマイクに近いとか、そんな感じでセッティングされていて。だからアイデアとしてはそれと同じ方法を取り入れて、常に同じマイクを使いつつ、まるでその部屋に自分もいるみたいに感じられる自然なサウンドを作り出すための手法を開発したわけ。 部屋自体にも楽器と同様にその部屋特有のサウンドがあると思うんだよ。どの楽器にもそれぞれの調性があるように、部屋にもそこならではのサウンドがある。そういう部屋の音がアルバムからもちゃんと聞こえてくるようにしたかったんだ。さっき「Night Or Day」についての質問があったけど、あの曲のビデオはレコーディングしたスタジオで撮影したから、アルバムの音が鳴らされた部屋の雰囲気は、あのビデオを観ればわかるよ。