フランツ・フェルディナンドが語る、新たな黄金期に導いた「らしさ」と「新しさ」の両立
2004年に戻りたいとは思わない
─1曲目の「Audacious」はいくつもの楽曲が合体したような、とてもフランツ・フェルディナンドらしい構造の曲ですね。どんなプロセスを経て生まれた曲なのか教えてください。 アレックス:これはピアノを弾くところから始まって……だからピアノ曲なんだ。ちなみに僕はジョン・レノン的なピアノ弾きで、つまりはすごく下手くそ(笑)。ジョン・レノンはピアノ弾きとしてはひどかったし僕もそうで、ポール・マッカートニーではない。でも下手なピアニストが弾いた場合に何が起こるかと言うと、本物のピアニストにとっては間違いで絶対にやらないようなことをやるわけ。そのおかげで面白い発見があったりするんだよ。セオリー通りに弾くのではなくて自分の手が動くままに奇妙なパターンを弾き始めたりしてさ。とにかく僕はピアノを弾きながらそのとき感じていたこと、自分の周りの世界が崩れ落ちていく恐怖を感じて、それについて歌ったりしていた。そしてそれに対する答えが、Audacious(大胆)だった。ピアノから始まった曲だけど、ピアノ曲のままにしておきたくはなかった。フランツ・フェルディナンドらしい曲にしたかったし……ボブとの会話がきっかけで生まれた部分も多い。 ボブが「Audacious」の歌詞をすごく気に入ったんだよ。元々このバンド自体も24年前にボブとバイト先の厨房で抽象的なアイデアを語り合ってから生まれたものだし、そういう話し合いは今も変わらずやってるんだ。それでこの曲に関しては、ヴァースとサビがQ&Aみたいな形になるようにしたいと思ったんだよね。まず現状に対する疑問を投げて、サビではそれに対して応答する形で、力強く、自信を持って、気持ちを高揚させるような返答にしたかった。そして音楽にもそれを反映させたかった。だからヴァースは倍テンポで、落ち着きがなくて緊張感があるんだけど、サビでは半分のテンポになって、それによって大胆で自信に満ち溢れた感じになって、歌詞にも合ってる気がした。 あと、曲の冒頭で僕が「Here we go with riff 1(リフ1からいくよ)」と言っている部分は、自分のスマホで録ったやつをそのまま使った。ボブも僕もこの曲にはリフが欲しいと思って、それでボブに「リフをいくつか作ったから聴いてみてよ」と6~7個リフを送ったんだけど、そのときに「じゃあまずリフ1から」と言いつつスマホでリフを録って、それをそのまま使ったんだ。というわけで、このアルバムは最もベーシックなデモ音源から始まっている。それから徐々にメンバーが入ってきて、サビで爆発して完全体の3Dサウンドになる。そうやってアルバムの1曲目でヴァースからサビにかけて進化していく様子に、何かとても詩的なものを感じたね。 ─アルバム中盤の印象的な曲、「Night Or Day」はどのようにして生まれたんですか? アレックス:「Night Or Day」を書き始めたのは前作よりも前だったんだけど、うまく完成させることができなかった。歌詞も今とは違っていて、結局は道を間違って突き進んでいたわけ。当時はどうしても完成させられなくて半ば諦めかけたんだけど、ギターのディーノ(・バルドー)がこれは素晴らしい曲だと言ってくれたんだ。ただし改善の余地があるって。まさにそれがバンドのいいところだよね。自分が自信を無くしたときに、「大丈夫だよ。もう一回見直してみよう」って元気付けてくれる友達がいるっていう。この曲もやっぱりこのアルバムらしさを反映していると思うんだよね……つまりグルーヴだったり、様式だったりはすごくフランツ・フェルディナンドらしくて、でもこれまでの曲にはなかったような、全く違う部分もあるという。結果的には特に好きな曲の一つになったよ。 ─キャリアの長いバンドがこういう充実した作品をリリースすると「初期の個性が戻った」みたいに言われがちですが、このニュー・アルバムはフランツ・フェルディナンドらしさを残しつつ、きっちり“今”のサウンドに更新されていますよね。自分たちでも変化すること、進化することは意識しましたか? アレックス:今回の目標が2つあって、これはボブともよく話しているし、ベスト・アルバムをやってからより明確になったことなんだけど、まず一つは、フランツ・フェルディナンドのアイデンティティに忠実でありたいということ。さっきも言ったように、どの曲もフランツ・フェルディナンドの曲だとはっきり認識できるようなものにしたかったんだ。でもそれはノスタルジアを意味しないんだよ。むしろノスタルジアを拒絶しているんだ。2004年を再現したいとは思っていないからね。もちろん2004年は楽しかったし最高だったけど、戻りたいとは思わない。僕らは一番売れたアルバムで何年も何年もツアーするようなバンドにはならない。僕にとってそれはすごく気が滅入ることだし、進歩的ではないから。僕は生きているアーティストで、何か新しいものを作りたいと思っている。だからこのアルバムも、自分たちのアイデンティティに忠実であると同時に新しいこともしたかった。自分の信念は2004年と変わってないかもしれないけどね。つまり余分な脂肪が一切ついていない、超引き締まったアルバムを作りたくて、どの曲もヒット曲のような感じにしたかったけど、自分が20年前に作ったようなものは作りたくなかったんだよ。なぜなら僕はその頃と同じ人間ではないからさ。このアルバムが発売される頃には52歳になっているわけで、そういう自分の人生も反映させたかった。今も当時と同じマネージャーで、当時と同じように人生を愛していて、音楽作りを愛しているけれど、僕は当時から20歳年を取っているわけだから、音楽にもそれを反映させたいんだ。 絶対に1stアルバムではやらなかっただろうなっていう曲を挙げると……「The Birds」みたいな曲は入らなかったと思う。「Hooked」も入ってないだろうね。あと「Black Eyelashes」も絶対に違う……楽器編成にしても、ブズーキを使ったりしているし。「Tell Me I Should Stay」や「Everydaydreamer」、あるいは「Audacious」のストリングスやオーケストラのアレンジにしても、1stアルバムではやらなかったことだと思う。だけど、どの曲もすごくフランツ・フェルディナンドらしいものになっているね。今のところはおそらく「Hooked」が今の自分と自分の考えを最も端的に捉えているかもしれない。理由はわからないけれど、今直感でそう思った。