ポルシェ911 詳細データテスト MT+NAの快感 公道志向の足回り 遮音性はやや改善の余地あり
内装 ★★★★★★★★★☆
軽量ドアを開けると、古き佳き雰囲気と最先端が共存した装備と仕立てに迎えられる。ヘリテージデザイン仕様のインテリアはクラシックコニャックのレザーと同色でリッチな手触りのクロス、ブラックのピンストライプの組み合わせ。おそらく公道向けポルシェのキャビンとしては、918スパイダー以来もっとも印象的だ。 回転計は燐のような緑の光を放ち、初代911を想起させるロマンティックさがある。ドアオープナーにはレザーのループを用いる。 ただし、新しいアイテムはとくにない。標準装備のカーボンバケットシートも見慣れたもので、肋の脇がすっぽり収まって身体がガッチリとサポートされる。もっと日常使いに向いたシートも無償オプションで用意されるが、GT3RSと同じ3707ポンド(約76万円)のカーボン仕上げのロールケージを選択した場合はバケットとの同時装着となる。 われわれとしては、このロールケージは装備したくないところだ。そうすれば、後席がなくなったスペースを荷物置き場として使いやすくなる。深さのあるフロントトランクと合わせれば、フェラーリ・ローマのようなGTカーに遜色ない積載性を発揮してくれる。
走り ★★★★★★★★★★
エンジンをかけると、この世のロードカーの中でもとくに聞き間違えようがないものに数えられるサウンドに迎えられる。鼻にかかったようで、かすかに金属的なガラガラ音は、ポルシェの自然吸気フラット6ならでは。これに加えて、シングルマスフライホイールによる、不均一でスネアドラムのような響きが耳障りに鳴る。激しく機械的な音で、スポーティながら高級感のあるキャビンで聞くとギャップ萌えを感じる。 MTで自然吸気のスポーツカーを運転する楽しみを邪魔するものは、なにひとつ見落とされていない。ペダルの重さはドンピシャ。味気なく退屈なものではなく、それぞれの位置関係もバッチリ。クラッチのトラベルはかなり長いが、S/Tのシンプルなドライブラインがミートするポイントは、心配するほど狭くない。弾けるようで神経質な525psの911を発進させるのは、ベーシックなボクスターのように直観的。その助けになっているのは軽さだ。 スタートの速さで、人間の限界に挑むのは簡単ではない。1速では、ECUが5000rpmまでしか許容せず、後輪のミシュラン・パイロットスポーツ・カップ2を圧倒して衝撃的なダッシュを決めることはできないのだ。0-97km/hは公称値どおりの3.7秒だったが、タイヤが十分に温まればもう少しいいタイムが出そうに思える。 おそらくこのタイム、いまどきの同じくらい高価なスーパーカーより1秒かそこらは遅い。しかしながら、この911のレゾンデートルが、数字よりも主観的な要素にあるのは明らかだ。 そうは言っても、2速で64-97km/hが1.3秒というのは、ランボルギーニ・アヴェンタドールSVJと同等。また、追い越したいけどシフトダウンが面倒くさいような場面に相当する、4速での48-113km/hは6.1秒で、もっとクロスレシオなGT3やGT3RSより速い。とはいえターボSなら、5万5000ポンド(約1133万円)安く、胃の中身が逆流しそうなパフォーマンスを得られる。 自らの手によるシフトチェンジは、もちろん深い満足感を味わえるし、S/T独自のキャラクターともなっている。たしかに、あるテスターはシフトの動きがちょっと短すぎ、このクルマの性格に合っていないという。しかし、ほかのテスターたちはこれが おおいに気に入った。 確実だが、過度に力のいる動きではなく、思いどおりに決まる。3速に入れようとして1速に入れてしまうようなリスクはほとんどない。ギアボックスはなめらかだ。その証拠に、0-241km/hは18秒ジャストで、少なくとも3度は手動変速を行うのに、GT3のPDK車に0.3秒遅れるのみだ。 エンジンは傑作だ。推進力に関して、この4.0Lユニットは3000rpmまでたいしたことはない。ここで、低いエンジン音に加わる吸気音が激しくなりはじめる。チタンの内部パーツやシングルマスフライホイールが生む高い回転性能は、おそらくゴードン・マレーの最新作のような最高級のクルマでなければ太刀打ちできない。 パワーカーブは完璧なまでにストレートで、アイドリングから8500rpmまで一気に駆け上がる。その上の残り500rpmは、ただひたすら楽しい。