「公開日からオタトークしたいんよ」 “バリアフリー字幕”という選択肢 同人誌マンガで描くユーザーから見たエンタメのいま
お正月に合わせた映画の公開情報が解禁され、エンターテインメントがさらに楽しみな季節がやってきました。その一方で、映画などを楽しむための“選択肢”にも新しい広がりがあるのをご存じでしょうか。
今回紹介する同人誌
『じまくvol.0』A5 44ページ 表紙、本文モノクロ 著者:カキン・チャン
ユーザーから見たバリアフリー字幕のいまを伝える
こちらは音声を聞き取れない、聞き取りにくい人に向けたバリアフリー字幕についての同人誌です。洋画などで見られる一般的な字幕がセリフの翻訳になっているのに対し、バリアフリー字幕では、効果音や流れる歌の歌詞もテキストで補足されます。 この本では、特撮好きな“ギャルちゃん”がバリアフリー字幕の付いた映画や舞台を見に行くマンガや、身近な声を参考にして独自にまとめた関連用語などを通じて、感音性難聴の作者さんがバリアフリー字幕の身近な現状やユーザーの気持ちを伝えています。
字幕化は進んでいるものの課題も
ご本にはたくさんの「!」が詰まっています。それは「応援上映にバリアフリー字幕が付く回がある! 応援の合いの手のタイミングがわかってめっちゃ楽しい!」「これまでより早く配信に字幕が付いた!」という喜びの声であり、「公開と同時に字幕がついたらネタバレトークも参加できるのに!」といった期待を込めた要望でもあります。 実際、バリアフリー字幕の普及は、2024年に障害者差別解消法が改正され合理的配慮が法的に義務化された背景もあり、進展を見せています。字幕付き上映や字幕メガネ、「UDCast」(ユーディーキャスト)といった機器や技術が広がり、過去に比べればバリアフリー字幕を利用できる機会は確実に増えています。 しかし、それでも見たい作品を制約なしに選べる環境には至っていません。通常上映に比べて字幕付き上映のスタートが遅いことや、上映期間が限られていることなど、作者さんが体感した現状には、まだまだ課題が残されています。
情報の行き来で深まる理解
バリアフリー字幕を必要とする人が、不自由なく利用できる環境を整えることはもちろん、利用しない人でもその存在を知っておくことが大事だと、ページをめくるうちに思いました。 例えば、舞台演劇では字幕が表示されるタブレット端末を貸し出すといった観賞サポートを提供するところもあるようです。利用者からすれば、どの座席でも手元でセリフを確認できるというメリットがあります。一方、利用者でなくてもそのようなサービスの存在を知ることで「あの人はなぜ公演中にタブレットを見ているんだろう?」と不審に思ってしまうこともなくなります。 また、「セリフがわかるのはありがたいが、公演中にタブレットを持ち続けるのは地味につらい……」という問題もあるようです。いまの自分には必要ないからと切り捨ててしまうのではなく、隣の人には必要かも、明日の自分には必要かも、と視野を広げていくことが、これからを、みんなを生きやすくしていくのではないでしょうか。 こちらのご本は「vol.0」となっているように、続刊も制作予定とのことで、次の展開も楽しみです。