コロナ禍5年、鉄道の「傷」は癒えたのか? 東西で異なる回復傾向 “蒸発した需要”を穴埋めするための施策とは
「コロナ禍後」の鉄道の動き、ここがポイント
鉄道利用は、収入の面からも見ることができます。東急は2023年3月に運賃を平均12.9%値上げしたため、2022年度第3四半期まで、輸送人員と運輸収入の減少率はほとんど同じでしたが、値上げ後は運輸収入が大きく改善しています。 2023年度第1四半期を比較すると、定期輸送人員は同79%に対し運輸収入は83%、定期外輸送人員は100%に対して運輸収入は115%。2023年度の運輸収入合計は2018年度を上回りました。2024年度見込みは2023年度をさらに3%ほど上回る見込みです。 2022年1月の運賃改定申請時点では、2023~2025年度の旅客運輸収入は、値上げしない場合は年平均約1231億円、値上げする場合は約1375億円としていましたが、2023年度実績はこれを約5%、2024年度見込みは約9%も上回っています。 運賃改定は通常、向こう3年の総収入と総括原価の予測を基に行いますが、コロナ禍からの回復は誰も見通せず、とはいえ経営に大ダメージを受けた事業者を放置するわけにもいきません。 そこで国は、暫定的な運賃改定を認める代わり、改定日から5年後(東急の場合2028年度末)に推計と実績を確認し、実態に応じて運賃を再改定する特例措置を導入しました。今後も想定以上の回復があった場合、「取りすぎた運賃」をどうするか議論を呼びそうです。 東急以外にも、2023年に近鉄、南海、京急、京王、2024年に名鉄が運賃改定を行いましたが、同じく収入見通しと2024年度運輸収入見込みを比較すると、近鉄は約10%、南海は約15%、京急が約6%の上振れです。一方、京王は約1%増、名鉄は3%増と僅差に収まる見込みです。 コロナ禍で「蒸発」した鉄道需要は、この5年間でかなり戻ってきました。ただその内容は「元通り」とはいきません。定期利用者は最大ボリュームの重要顧客であり、その減少は経営にとって大打撃です。 しかし通勤・通学利用が減少すれば、朝ラッシュ時のピークを基準に用意する鉄道施設や車両のスリム化が可能になります。ピーク時しか使わない施設・車両は非効率な資産ですから、利用が分散して朝ラッシュ時の負担が減れば、経営にとっては必ずしも悪い話ではありません。 今後は各事業者とも定期外利用の促進と単価増を重視することになります。キーワードはインバウンドを含む観光利用と有料着席列車です。空港輸送を担う京成、京急、南海、名鉄は定期外利用が伸びており、「京王ライナー」や「プレミアムカー」を運行する京王と京阪は利用者単価が増加しています。 こうしたポイントに注意して「アフターコロナ」の鉄道経営を見ていくと、さまざまな動きが理解しやすくなるはずです。
枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)