北海道・阿寒湖畔に広がる「光の森」を歩いて感じた、見直すべき自然との付き合い方[FRaU]
今なおアイヌの暮らしが残る北海道・阿寒湖。湖畔に広がる美しい“光の森”は、アイヌの人々が生活の糧を得てきた場所だ。東京から長野に移住し、自給的生活に挑戦中の工作家・清水麻由子さんにとって、自然の恵みを活用して生きるアイヌの知恵は尊敬の念を抱くもの。アイヌの母を持つガイド、瀧口健吾さんと森を歩き、森と人間の理想的な関係について考えた。
アイヌとともにある“光の森”。北海道・阿寒湖畔の深い森へ
森の前に立ち、ガイドの瀧口健吾さんは両手をこすり合わせ上下させる。清水麻由子さんもその動きに従う。森に入る前、アイヌが行うお祈り“オンカミ”を終え、森へ入る。
北海道・阿寒摩周国立公園の中にある阿寒湖。マリモで知られる湖の周りには広大な森が広がり、今もアイヌが生活を営む「阿寒湖アイヌコタン」がある。
彫刻家の父とアイヌの母の間に生まれた瀧口さんは両親の工芸店「イチンゲの店」を受け継ぎ、木彫り作家として活動。阿寒の森のガイドも務め、アイヌの文化を伝えている。
阿寒湖アイヌコタンにある瀧口さんの店「イチンゲの店」には父で彫刻家の瀧口政満氏の作品も。北海道釧路市阿寒町阿寒湖温泉4-7-10。不定休。
阿寒湖アイヌコタンから歩いて5分ほどで巨木がそびえる森が始まる。ここは“光の森”と呼ばれ、認定ガイドの同行が必須。
これほど広大な森を原始の姿に近く残してこられたのは、森を保全管理してきた前田一歩園財団の存在が大きい。 1906(明治39)年、初代園主の前田正名が国有未開地の払い下げを受け、阿寒湖に「前田一歩園」として牧場を開拓。スイスで見た山の美しさに心奪われた正名は阿寒湖畔の森を「伐る山から観る山にすべきである」と考え、守ってきた。
1959(昭和34)年、「阿寒のハポ(母)」と呼ばれた3代目園主の前田光子が阿寒湖の私有地の一部をアイヌに無償で貸し出したことで現在も続く「阿寒湖アイヌコタン」がつくられた。
「あの大きな葉っぱ、なんだかわかりますか?」と瀧口さん。「ミズバショウですね」と清水さんが答える。清水さんは茨城県笠間市出身。自然豊かな土地で子供時代を過ごした。美術短大でデザインを学び、古材を使った木材加工や家具製作などを行う木工所に入社。独立後は木など自然の素材を用いて小物を作る作家として活動してきた。