北海道・阿寒湖畔に広がる「光の森」を歩いて感じた、見直すべき自然との付き合い方[FRaU]
「ミズバショウの根茎にはシュウ酸カルシウムが含まれていて、食べると下痢をします。だからアイヌは食べません。でも冬眠明けのクマは食べて、冬眠中に体内に溜まった毒素を排出するそうです。あっちはキハダという木。古くからアイヌは腹が痛い時にその実を食べていて、とった実を乾燥させて薬のように使っていました。食べてみますか?」
瀧口さんが、持参した黒い実を手渡す。 「ジュニパーベリーに似た香り」と清水さん。ふたりは森を歩きながら、食べられる実、危険な植物などを見つけては立ち止まる。7年前に東京から長野県の上田市に移住した清水さん。米や野菜を作り、山菜をとって食べる暮らしの中でアイヌ文化に興味を持った。
「衣食住、あらゆる生活の糧を自然からいただく。それはすごく難しいと上田に暮らし始めて実感しました。だからこそ土地の恵みを活用し、敬い、その知恵を伝えてきたアイヌの生活から学びたいことがあるんです」
土がえぐれ、木の根が剥き出しになっている様子を見て、瀧口さんが言った。 「多くの人は土から木が生えると思っているでしょう。でもアイヌは木が大地をつかんでいると考えます。山の木を全部切ると大地をつかんできた木がなくなり、鉄砲水や土砂崩れが起きる。だから木は大切だと考えます。儀式に使うヤナギの木を切ったら、必ず枝を一本土に刺しておく。そこから新しい木が育って、また儀式に使わせてもらえるから。それを怠ったら、すごく怒られます。そんなふうに生活に必要なものを自然からいただきつつ、全部とり尽くさないよう気をつけてきたんです」
対等だから奪い尽くさない。アイヌから学ぶ自然との関係
森の中で瀧口さんが穴だらけになった木を指差す。 「クマゲラが幹の中の虫を食べるためにクチバシであけた穴です。アイヌはあの様子を見て、木をくり抜いて丸木舟を作るアイデアを得た。クマゲラはアイヌ語でチプタチカップカムイ、舟を掘る鳥の神という意味です。アイヌはヒグマをはじめ様々な動植物や自然現象にカムイ(神)が宿るとして敬いますが、人間にはできないことができる、そんな力を持ったものをカムイと考えます」