「結婚しなきゃと思わせてしまう社会の空気を、どこかで入れ替えたい」――「敏感中年」48歳、ふかわりょうの生きる道
こじらせの発端は、若い頃の恋愛にあるかもしれない
発端は、若い頃の恋愛にあるかもしれない、と振り返る。 「高校から付き合っていた女性と、それぞれ別の大学に進学したんですけど、ある日のデート帰りに、彼女の表情が違った。『何かあるの?』って問い詰めたら、『好きな人がいる』と。彼女も、打ち明けたことでタガが外れたのか、そこでもうまっしぐら。連絡が途絶えがちになったころ、どうにも我慢ができなくなって彼女の大学へ行きました。当時は携帯もないですし、連絡は取れないから、突然。そしたら、ちょうど彼女が友達と3人で楽しそうにお喋りしていたんですよ。めちゃくちゃキャンパスライフを謳歌していた。で、ここで帰るわけにはいかないから、どうにかやり直してもらえないかなと言ったんですけど、彼女の手首には、僕とのペアウォッチではなくて、大きなオメガみたいな時計が。『好きな人にもらった』と言われて」 毎年クリスマスには、横浜のとある公園で、彼女にプレゼントを渡していた。その年のクリスマスイブも、件の公園へ一人で向かったふかわ。もしかしたら、戻ってきてくれるかもしれない。夕方から深夜になるまで待ち続けたが、彼女は現れなかった。 「日付が変わって、初めて彼女との日々が思い出に変わりました。ああ、これがサンタさんのプレゼントかな、と。ベンチにペンで『ありがとう』って書いて、帰りました。ええ、風邪をひきました。若気の至りというか、そこで何か、こじらせ始めたかもしれないですね」 人一倍、他人の心に敏感で、傷つきやすい。ふかわは「敏感中年」を自認している。 こじらせ系と言ってしまえばそれまでだが、古典から現代まで、恋愛小説のテーマはこうした部分にあったはずだ。恋に悩んで、社会の欺瞞に苦しみ、孤独を深めていく青年。 「作家には敏感中年が多いと思いますね。ポジティブに言えば、私も物書きが向いているんでしょう。敏感中年のこじらせ日記。エッセイのサブタイトルにしようとしたら、全力で止められました(笑)。意外と平静を装ってはいても、内部には結構いろんなことが巻き起こってるんです」