パナソニック福岡堅樹が日本一&“有終トライ”…28歳でラグビー引退し医師の道へ「やり切った。何ひとつ後悔はない」
「自分がラグビー人生のなかでやり残していた、チームでの優勝を最後に勝ち取ることができました。自分が次へ向けた(医師への)準備を快く受け入れてくれて、自分のプレーを常にみんながサポートしてくれた、言葉では言い表せないぐらい最高のチームでプレーできたことを誇りに思います。たくさんの応援があったからこそ、自分の夢へ向かってポジティブに進めました。これからは自分の形で恩返しをしていきたい」 サントリー戦でひとつ積み重ねたトライは、最終的にリーグトップの「14」になった。第二の人生へ送り出すのが惜しいぐらいの、まだまだ伸びしろが望める無双状態での現役引退へ、パナソニックの仲間たちも努めてポジティブな惜別の言葉を送った。 「ラグビーを続けていけば、彼に治療してもらえる日が来るかもしれないので。そのときまでラグビーを続けたいですね」 ともにワールドカップを戦った“笑わない男”、30歳のプロップ稲垣啓太がごく近い未来へ視線を送れば、同じく代表の盟友、フッカー堀江翔太も続いた。 「チームドクターになってくれたら。一番速く選手のもとへ駆けつけられますよね」 福岡自身は何科の医師を目指すのかを、まだ具体的には定めていない。それでも、自身の手術を執刀した恩人とダブらせながら、理想する姿は明確に思い描いている。 「けがや病気を治すことだけにフォーカスするのではなく、その後の(患者の)人生を考えてどのような治療法を選択できるか。これからも技術は発展していくと思いますが、心の部分や診断の精度は人間が基本になる。そういうところを強みにしていきたい」 トップリーグ制覇に日本選手権との二冠も添える大団円で、福岡が突っ走ってきたラストシーズンは幕を閉じた。優勝とトライ王を置き土産にする、最高のシナリオで引退する心境を問われた福岡は「これから(チームを離れて)引退を実感することはあると思う」としながら、この言葉にだけは力を込めて、胸を張って発信している。 「いま確実に言えることは、自分がラグビーでやりたいことはやり切りました。なので、何ひとつ後悔はありません」 涙がちょっぴり頬を伝ったのは、表彰式前にキャプテンのフッカー坂手淳史に労をねぎらわれた一瞬だけ。最高の仲間たちとはちきれんばかりの笑顔を共有した福岡は、パナソニック、そして日本代表で経験した濃密な時間を強みに変えて新たな道を進んでいく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)