パナソニック福岡堅樹が日本一&“有終トライ”…28歳でラグビー引退し医師の道へ「やり切った。何ひとつ後悔はない」
祖父が内科の開業医、父が歯科医という家庭で生まれ育った福岡は、医師という職業に憧れてきた。そして、高校2年の夏にひざに大けがを負い、手術を執刀した医師から復帰へ向けて心身両面で感銘を受けた経験が、憧れを明確な目標へ変えていた。 しかし、新型コロナウイルスの感染拡大とともに、東京五輪の開催が1年延期される予期せぬ事態のなかで人生の再設計を余儀なくされた。今春に医学部を受験する初志を貫く一方で、受験勉強とパナソニックでのラグビー、さらに7人制の日本代表入り挑戦を成り立たせるにはあまりに時間が足りなく、心身の許容量も超えていた。 東京五輪への挑戦断念を表明した昨年6月。愛してやまないラグビーに競技レベルで取り組める、最後のシーズンへかける思いを問われた福岡はこんな言葉を残している。 「後悔のないように、自分もチームも最後には笑って終えられるシーズンにしたい」 2013-14シーズンからトップリーグ3連覇を達成したパナソニックは、福岡が加入した2016-17シーズンから無冠が続いていた。筑波大学時代に大学選手権でも2度準優勝している福岡は、笑ってシーズンを終えるためにがむしゃらに優勝を目指した。 新型コロナウイルス禍で、当初の予定より遅れたシーズンの開幕と受験が重なった。さらに佳境を迎えた終盤からは大学生1年生の肩書きも加わったなかで、ロースコアで引き分けた神戸製鋼戦を除いて、開幕から出場した全9試合でトライを決めてきた。 「ラグビーを中心としたいままでの生活とは大きく変わって、コンディション調整が難しかった部分もありました。そのなかで限られた時間をいかに有効に使えるか。車で移動してきてすぐに練習というケースもありましたけど、そのなかでけがをしないようにしっかりと自分でコントロールをしてパフォーマンスを上げられるように、チームとも相談しながら試行錯誤してここまでやり抜くことができたと思います」 全力で駆け抜けてきた最後のシーズンをこう振り返った福岡は、ともに無敗で勝ち進んできた決勝の相手が、2017-18シーズンの優勝をかけた直接対決で苦杯をなめさせられたサントリーだった縁に、そして激戦の末に勝利したことに再び笑顔を弾けさせた。