なでしこジャパン、サッカー男子日本代表チーム…日本代表選手の食を支え続けてきた料理人が教科書に
試合の3日前は銀鱈、2日前はハンバーグ、前日はうなぎ、そして試合後はカレーライスということだけは決まっていたとか。 リラックスして楽しく食事をしてほしいということから、目の前で肉を焼いたり、パスタを作るライブクッキングも始めた。 「料理は滞在しているホテルのレストランスタッフにも手伝ってもらうのですが、彼らはホテル宿泊客の食事の用意をしなければいけない。そのために食事の2~3時間前には作り終えて、温かいものは温蔵庫、冷たいものは冷蔵庫に入れて保存しておく。 いちばんおいしいのは作りたてですから、最高の状態ではないわけです。そのせいか食が進まない選手も多かった。そこでライブクッキングを始めたんです」 食事を楽しんでもらうために、時にはラーメンやお好み焼きを作ったり。しかし、西さんがいちばん心を砕いたのはメニューではなかった。 「衛生管理です。遠征中、何人かおなかを壊してしまう選手がいて、それは水のせいだと思ったんです。野菜やフルーツを洗ったあとの水分が残っていて、それが原因ではないかと。 そこで到着してから2~3日は生野菜やフルーツを出すのを控えたり、歯を磨くのにもミネラルウォーターを使ってもらうようにしました。危険な因子を取り除いて、万全な状態で試合に臨めるようにしないといけませんから」 選手より前に現地に入ったスタッフにはホテルで食事をしてもらい、下痢になったりしないか調べることもあるとか。 西さんが帯同しなければ、選手は必要とするものを自分たちで用意しなければならない。なでしこジャパンはその昔自分たちでお米を用意し、試合前におにぎりを作っていたという。 「喜んで食べてもらうのが、僕のいちばんの励み。たとえば朝食に焼サバと煮物を出したとき、『朝からこんな煮物が出るの』と喜んでもらえれば、『煮物でこんなに喜ばれるの。じゃあ、お昼に太巻きを作っちゃおうかな』と。それは家庭でも同じですよね」 ◆サッカー日本代表チームの専属シェフを勇退後、ラグビーやなでしこジャパンのシェフに ’22年、W杯カタール大会を最後に西さんは専属シェフを退いた。「若い人にも経験してほしいから」と言う。 ’23年からはラグビーW杯の日本代表チームのほか、なでしこジャパンの専属シェフとして試合に帯同している。 ラグビー日本代表チームの食事を作ったとき、改めて「食事っていいな」と思ったことがあるという。 「ラグビーの場合、昼と夜は外食してもいいんです。最初は半分くらいの人が外食していたけれど、そのうちほとんどの選手がホテルで食事をしてくれるようになった。 みんなでテーブルを囲むとコミュニケーションがとれる。食事会場にいる時間も長くなって、あとでスタッフから『西さんのおかげだ』と言われました。いい思い出です」 現在は、ラグビーチームやなでしこジャパンのほか、サッカーのアジア・チャンピオン・リーグで遠征するクラブの食事も担当している。忙しい合間を縫って、畑仕事も。福島の家の前には畑があるのだ。 「JFAアカデミー福島の中高生の食事も担当しているんですけど、今は肉も野菜も高騰している。予算には限りがあるし、だったら自分で作ったらいいんじゃないかと思って。 農作業はやったことがなくて、失敗ばかりですけど(笑)。この前はレタスの種を1袋蒔いたら、できすぎちゃって、どうしたらいいかと。試行錯誤しながら、勉強しながらやってます」 まだまだ忙しい日々は続いているのだ。 「『ぜひともお願いします』と言われれば、断る理由はない。まだまだやれるぞという気持ちもありますから」 取材・文:中川いづみ
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