イリがやって来る ヤァ! ヤァ! ヤァ!【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】
■イリ、北上 私はここでひとり東京に戻る。イリはその後、G2P-Japanのメンバーによるリレー形式で、新幹線で北上することになっていた。 まずは広島へ。G2P-Japanのメンバーである、広島大学のIがホストとなり、研究打ち合わせの後、原爆ドームや宮島を観光した。原爆ドームは、チェコの建築家が設計した建築物とのことで、イリが今回の来日でいちばん楽しみにしていたものだったという。 広島ではお好み焼きやラーメンをたしなみ、東海道新幹線で京都へ。京都のホストは、G2P-Japanのメンバーである、京都大学医生物学研究所のHと、京都大学iPS細胞研究所のT。ちょうど週末とかぶっていたので、ひとり嵐山の竹林を散策したりしたという。 「キノコ好き」という事前情報を得ていたので、HとTにお願いして、マツタケを振る舞ってもらった。会食には、これまたG2P-Japanのメンバーである京大病院のS先生(46話に登場)も同席してくれた。ちなみに、あとでイリに聞いた話だが、今回の来日でいちばんダメだった料理は、京都で食べたにしんそばだったらしい(「なんかしょっぱい発酵したような魚が載っているスープ」と形容していた)。
■イリ、上京 そしてついに、新幹線で東京に帰還。ラボでセミナーをしてもらい、研究打ち合わせをした後で、ラボでパーティーを催した。みんなで出前寿司を堪能しつつ、イリの熊本から東京までの冒険譚に花を咲かせたりした。翌日は、私のラボの大学院生やポスドクがアテンドして、東京観光に出かけた。 こういう若いときの海外の研究者との交流が、次のモチベーションになったりする。私も京都の大学院生の頃、ラボの教授からの勅命で、外国から訪問してきた研究者のアテンドを何度かやらされたことがある。 あるときには、まったく融通の効かない年配の偉いドイツ人研究者を、先輩と一緒にアテンドし、あまりのコントロールの効かなさに、彼をホテルに送り返した後に先輩とふたりで愚痴りながら打ち上げをしたこともあった(そんな「年配の偉いドイツ人」も、それがきっかけとなり、今では仲良しになっている)。 またあるときには、「神社の鳥居はなぜみんな朱色なの?」というような、「言われてみればたしかに。でも考えたことがなかった」というようなトリビアな質問をされて慌てたりした。今は、スマホでなんでもすぐに調べることができるし、同時翻訳ツールもかなり具合が良くなってきているので、そんな苦労も昔に比べたら少なくなってきているのかもしれないが、そういうのも良い思い出である。 ■イリ、帰捷 最後の晩餐は、私のラボメンバーたちと焼肉に出かけたらしい(「らしい」というのも、実は私はこの日からひどい風邪を引いてしまい、参加することができなかったのである......)。 約2週間の滞在を終え、イリは、"Thank you for this awesome visit"というメッセージを残し、チェコへと帰っていった(なお、小見出しの「捷」とは「チェコ」のことらしい)。そして、どちらからともなく続く文言は、"See you again somewhere in the world!"、である。 世界中に散らばる友人たちと、世界のどこかでまた会える日が楽しみになるし、そのときに楽しくサイエンスの話ができるように、日々の研究を頑張ろう、というモチベーションが湧く。「アカデミア(大学業界)」のメンタルは、そのようなサイクルで回っているともいえる。 文・写真/佐藤 佳