「本当は10年かけたかった」鈴木敏夫プロデューサーが語る、宮﨑駿最後の長編の“反作用” #ニュースその後
高畑監督の死で、内容が方向転換した
この取材の2日前、宮﨑監督に密着したドキュメンタリーが放送された。宮﨑監督と、2018年4月に亡くなった高畑勲監督の関係がクローズアップされていた。高畑さんが亡くなって絵コンテがまったく描けなくなる宮﨑監督の姿が映し出されていた。 ──このタイミングで放送されることを鈴木さんは知っていたんですか? 「僕は一切知りませんでした。不意打ちです」 ──番組では、宮﨑監督は高畑さんにずっと片想いしていたのだと。 「そう。宮﨑駿の片想いです。高畑さんが亡くなったことで、話の内容が方向転換したんです。要するに、子ども時代から描いて大人になるわけじゃない? その途中で高畑勲という人に出会って、自分を抜擢してくれるわけで。先輩として、同僚として、時には友人として、彼との出会いが自分の人生を変えた。そういう話になる予定だったのよ。ところが、高畑さんが死んじゃった。それで茫然自失となって、取りかかれなくなるわけ。絵コンテが約1年、ストップしたんですよ。あれは大きかったですね」 『君たち』は、そもそもが自伝として構想されている。眞人(まひと)は宮﨑監督。大伯父は高畑さんで、青サギは鈴木さんだ。もちろん、「観客はどう見ようが勝手。なんだっていいんですよ」(鈴木さん)である。 ──大伯父が高畑さんであるというのは、はじめから? 「そう。あれは高畑さんって最初から決めている。で、その人と自分の話にしようと思っていたわけ」
──眞人少年との関わりで言えば、青サギのほうが友情を結ぶ相手として前面に出ていた印象も受けたのですが。 「それはね、高畑さんの死によって出てきた案だと僕は思いますよ。多少は考えていたかもしれないけれど」 ──青サギが「あばよ、友だち」と言って別れます。要するに、眞人である宮﨑監督は、青サギである鈴木さんのことを、友だちだと思っていたんですよね。鈴木さんはぐっときませんでしたか。 「全然。僕は仕事に感情を入れないんです。すみませんね、期待にこたえられなくて(笑)。余韻に酔うことが好きじゃない。世の中にはそれが好きな人もいると聞いていますが。そうするとね、負けちゃうんですよ。どこまでも冷静にいないと」 『君たちはどう生きるか』は、友情の話だ。とはいえ、その友情は一筋縄ではいかない。鈴木さんによれば、高畑さんは近代合理主義者、宮﨑監督はブリコラージュの人。そして鈴木さん自身は徹底的なリアリスト。持ち味の異なる3人が、それでも協働して映画をつくる場所。そのような場所としてジブリは誕生した。 劇場用ポスター第2弾では、宮﨑監督が描いた眞人のイラストに「友だちを見つけます。」というコピーが添えられた。 ──「友だちを見つけます。」って、いいですね。 「でもね、宮﨑駿なんかへそまがりでしょ。これを見た瞬間、『鈴木さん、これでいくの? 俺は気に入らない』って。そう言っておきながら、僕がいなくなったらわざわざ自分で部屋にポスターを飾ったんですよ(笑)。そういうところを持ってないとだめだよね」