「本当は10年かけたかった」鈴木敏夫プロデューサーが語る、宮﨑駿最後の長編の“反作用” #ニュースその後
──興行成績が好調です。 「おかげさまで、数え切れないぐらいいろんなところでやっているんで。ポルトガルやオランダ、スペインでもやっているし。アメリカは3週目に入ったんだよね。いよいよ最後一個だけ、残っているところがあるんです。もしかしたら一番大きいかもしれない。これが楽しみな段階ですね」 ──北米と並ぶ、世界最大級の映画市場である中国ですね。最終的にかなり儲かるのでは。 「結果としてはたぶんプラスになると思います。僕はつくづく自分の運命を呪いましたよね(笑)。社員にとってはいいんだろうけど。実を言うと、社員にもずいぶん前に説明しているんです。今回ばかりは簡単にはお客さんに来てもらえない。本当にひどい目に遭うかもしれないけど……って」 ──儲かったお金で何をするんですか? 「いっぱい儲かったら、みんなに配っちゃうんです。昔の会社ってそうだったから。みんなで山分けが一番いいんじゃない? それで解散したっていいんだもん」 ──宮﨑監督の長編復帰をきっかけに、もう一度ものをつくるスタジオとして本格的にやっていくのかと思いました。 「全然。僕はそう思わない。むしろそれを潰したんです、この作品は。本当の話をするよ。要するに、時間とお金をかけてちゃんとした作品をつくるということが、何をもたらしたか、です。アニメーションの現場で絵を描く人たち、それから監督たち、『君たち』を見たらもうつくる気になれないですよね。そういう人たちは、(一般の観客とは)全然別の見方をするんです。どうやったらこんなすごいものができるの?って。かなり多くの人がそう思ったと思う。で、それは僕、見通せなかったんですよ」
──どういうことでしょうか。 「宮﨑駿が長編をつくるのはこれが最後だから、好きなだけやってもらおうと考えましたよ。そして完成した映画が、多くの人に受け入れてもらえたわけでしょう。これは大変なことなんです。要するに、これがスタンダードになってしまうということなんです。ベテランでも若い人でも、これと同じレベルのものを要求されたら、どうします?」 ──時間もお金も与えられた上で、ですよね? 「予算があればなんて軽く言うけど、力のない人はお金、使えないんです。お金が使えるのは力のある人だけなんですよ。本田くんなんか、もう一度やりたいと思うでしょう。彼はできますよ。じゃあほかのアニメーターは? プロデューサーは? これを見たら絶望的になりますよ。どうやってやるんだって。すごいものってそういう反作用があるわけ。すぐれたものは必ずしもみんなに希望を与えるんじゃない。時として絶望を与えるんです。そのことをもう少し考えるべきだったのかなって、ちょっと反省しています」 ──『君たち』には腕利きのアニメーターが集結して、監督の絵コンテをアニメートしたんじゃないんですか? 「そういうことじゃないという気がするよ。一本の長編アニメーションをつくるのに、アニメーターが少ないほうがいいに決まっているんです。それが一番ぜいたくなの」 ──少数精鋭と言われる『君たち』でもまだ多い? 「多い。例えば『トトロ』はね、いわゆる原画マンって8人しかいないんです。だからすごいものができたんです。一番大事なのは、絵の中心人物です。今回でいえば本田くん。明快なんです。人がたくさんいるのは必ずしもいい状態じゃないんです。どんな仕事でもそうだよ、それは」 ──ジブリはこれからどうなっていくんですか。 「わかんない。まだ終わっていないから。教えてほしいぐらい。僕自身はね、もしチャンスがあればとんずらしたいよね。ふふふ。でもなかなかそういうわけにもいかないだろうから」