「本当は10年かけたかった」鈴木敏夫プロデューサーが語る、宮﨑駿最後の長編の“反作用” #ニュースその後
──異論は出なかったんですか。 「ある時、これまでお世話になった方に集まっていただいて、説明したんです。『今回に限っては、回収できない自信がある。だから(製作に)参加しないでほしい』って。製作委員会をやめた(ジブリの単独出資にした)がゆえに、いろんな人たちに迷惑をかけなかった。あと、気をつかうところがあるとしたら、(配給の)東宝さん。製作委員会はともかく、映画の興行はやりたいとおっしゃったので。でも、そんなには儲からないですよということは最初から伝えていました」 ──そうだったんですね。 「ある試写会で、僕と宮﨑が関係者の前で挨拶をしなければならないことがあったの。それで僕は、いきなりこう言ったんですよ。『みなさん、今回の作品は、宣伝をしません。難しい興行になると思いますけど、僕としてはそれをやりたい』。そうしたらそのあと、宮﨑駿が、『僕は心配です』って言ったんだよね(笑)」 ──監督ならずともそう思うと思います。 「だってさ、ずっと同じことやってきたんだよ。これまでやってきたことは繰り返したくない。最後にいつもと違うことをやりたい。それが引退を撤回してもう一度つくる本当の気持ちだったんです」
「本当は10年かけたかった」
鈴木さんは宮﨑監督が長編に復帰することに反対だった。 鈴木さん責任編集の『スタジオジブリ物語』によれば、宮﨑監督が『君たち』の企画書を鈴木さんに手渡したのが2016年7月。監督が冒頭20分の絵コンテを描きあげ、鈴木さんがついに観念して「やりますか」と言ったのがその年の末。 ──それから公開まで7年。長かったですね。 「本当は10年かけてつくりたかった。怒ってましたもん。なんでそんなに早くつくるんだって。それは、真剣に怒ってました」 ──そうなんですか!? 「もっとやらなきゃだめだというのがどこかにあったんです、僕は。徹底的にやらなきゃ」 ──十分に過剰さのある映像だと思いました。 「それでもやっぱり(制作期間の)最後のほうはあわて始めましたから。くだらないことするなって言っていたんだけど。僕、追い込みって大嫌いなんです、昔から。日本人って、追い込まれるの好きでしょう? そうじゃないと仕事した気にならないなんて、くだらない自己満足だと思う。どうして早くやりたいかわかりますか? 締め切りがあると手が抜けるんですよ。みんなそうでしょう? 追い込みっていうと、みんなどこかで喜んでいるんです。ちゃんとやらなくていいんだなって」 ──間に合わせるという言い訳が立ちますもんね。 「そう」 それでも7年は十分に長い。そして今、資金を回収できないはずの巨大なインディーズ映画は、国内のみならず海外でも好成績をあげている。北米では12月8日に封切られ、初週1位を記録した。