AirPodsが衰えた聴覚を支援 無料「ヒアリング補助」機能のインパクト
音楽再生や紛失防止などAirPodsの良さがそのまま活かせる
■音楽再生や紛失防止などAirPodsの良さがそのまま活かせる アップルによる聴覚の健康をサポートする機能は、医師による処方箋なしでiPhoneとAirPods Proを購入した直後から使える。イヤホン型補聴器の中には音楽や映画の音声を聴くたびに、都度補聴器モードからオーディオモードへの切り替えを求められる製品もある。AirPods Proはエンターテインメントとヒアリング補助、相互にスムーズな切り替えを実現している。 ヒアリング補助をオフにして、「メディアアシスト」の設定項目だけをオンにすることも可能だ。この場合は聴力検査の結果を活かして、エンターテインメントコンテンツの聞きやすさを高める。筆者もApple Musicの音楽再生で試したところ、よりメリハリの効いたサウンドが楽しめた。 終日に渡ってヒアリング補助を必要とするユーザーは、AirPods Proが1回の充電から連続して使える再生時間が最大6時間であることが心もとなく感じるかもしれない。充電ケースには5分間の充電で約1時間の再生時間ができるまで急速にチャージする機能もある。今後、より多くの電力を消費する音楽のストリーミング再生をオフにして、補聴器としてさらに長い時間使えるモードが追加されても良さそうだ。 筆者の高齢の家族は、以前に高額なワイヤレスタイプの補聴器を紛失してしまったことがある。AirPods Proには、万一の紛失時にiPhoneを使って「探す」機能があるので、ヒアリング補助のための機器を必要とするユーザーと、その家族も安心だ。ただ、ワイヤレス補聴器の中にはAirPods Proよりもコンパクトで軽い製品もある。アップルは今後、ヒアリング補助のためのデバイスとしてAirPods Proを使うユーザーからも多くのフィードバックを得て、様々な改善を図っていくことになるだろう。
「普通のイヤホン」が補聴器を使う煩雑さや抵抗感を和らげてくれる
■「普通のイヤホン」が補聴器を使う煩雑さや抵抗感を和らげてくれる 補聴器として使えるワイヤレスイヤホンはそれほど目新しいものではない。筆者が以前に取材した国内メーカーの製品は、初めて補聴器を使う方も安心して選べるよう、製品に付属するオプションとして技能資格取得者によるオンラインサポートが提供できることを強みに打ち出している。一般的な補聴器の場合は最初のフィッティング以後、2~3カ月くらいの調整を続けてユーザーの耳になじませる。そのためオンラインでのフィッティングサービスや、使用に関するガイダンスが大きな意味を持つのだと、当時筆者は取材の際に説明を受けた。ほかにも高価格帯で提供される補聴器の中には、ユーザーの耳に合わせた聞こえを調整するための有人サポートが付属する製品も少なくない。 対するアップルのAirPods Proによる聴覚の健康をサポートする機能の大きなメリットは、3万円台のワイヤレスイヤホンで難聴の悩みを抱えるユーザーが気軽に試せるところにあると筆者は考える。ヒアリングチェックにより、自身の耳の聞こえ方に「気づき」を与えることにも大きな意味がある。本格的に機能の認知が拡大した時に、アップルがヒアリング補助を必要とするユーザーにどのようなサポートを提供できるのか注目したい。 AirPods Proは見た目に普通のワイヤレスイヤホンだ。補聴器を着けているように見えないことから、使用時の抵抗感が和らぐメリットもある。アップルが聴覚の健康をサポートする機能のソフトウェアについて管理医療機器の認証を取得したことはユーザーの安心にも結びつく。しかしながら当然のことだが、スマートデバイスとその画期的な機能に依存することは禁物だ。耳の聞こえ方に不調を実感したり、またはヒアリングチェックの結果が軽中等度の難聴レベルとして判定された際には専門医の診断を受けるべきだ。 厚生労働省によると、現在は年齢などにかかわらず日本国民全体の中で約10%にあたる1430万人が難聴を抱えながら生活しているという。イヤホンを装着した相手と対面して会話することに、まだ多くの人々が慣れていないと思う。AirPods Proの新機能が脚光を浴びることにより、ワイヤレスイヤホンが聞こえをサポートするスマートデバイスであることの認知も広がることを期待したい。
山本 敦