孤高の先駆者、溝口和洋さん「やり投げを好きと感じたことはない」 パリ五輪へ北口榛花は世界記録も目指せる「才能」
陸上のやり投げが今、かつてないほどに注目を集めている。昨年の世界選手権で北口榛花(26)=JAL=がこの種目で日本勢初制覇を果たし、今夏のパリ五輪も金メダル最有力候補に挙がる。一方で、男子は独自の理論と徹底した肉体改造で孤高の先駆者となった溝口和洋さん(62)が持つ日本記録が35年近く更新されていない。同じ投てき選手として陸上男子ハンマー投げの五輪金メダリストでスポーツ庁長官の「鉄人」室伏広治さん(49)も指導を仰いだ存在。地元の和歌山県白浜町でトルコキキョウの栽培など農業を営む溝口さんは今、何を思うのか―。インタビューで心境に迫った。(聞き手 共同通信・山本駿、田村崇仁) 【写真】女子やり投げで北口榛花がV 陸上国際大会、4戦4勝 5月
▽北口の動きとしなりは「理想的」 南紀白浜空港から車で約15分。溝口さんの自宅に到着すると、家の前の作業場へと案内された。ビール瓶のケースを椅子代わりに、まずは67メートル38の日本記録を持つ北口のことを語ってもらった。 「立派なもんですよね。もっと頑張れば、(72メートル28の)世界記録も目指せると思っている。今まで選手を見てきた中では、ものすごい才能で投げている。高校の時に和歌山で初めて見た。当時からこんな子がいるのかと、驚いた。他の子とは違った。投てきはフィジカル、体がものすごく大事だが、日本人らしからぬ体格の持ち主で、持っているものがすごいと思った」 「胸からの動きが理想的。胸を使わずに上だけで腕を振る子が多い。でも北口はバトミントンと水泳もやっていたからか、肩甲骨が上がって、そこからしなっていく。それを何も考えずにできている。腕だけで投げるよりも、最初から3~4メートルは違うんじゃないか」
「結局、自分が一番大事にしていたのは振り切り。最後に肩が入って、肘が入って、手からやりが離れる感覚は毎回大事にしていた。選手の時は、その感覚をずっと追い求めていた」 北口の「才能」を感じるからこそ、言葉に熱がこもった。 ▽世界記録にあと6センチ 溝口さん自身、現役時代は尋常ではないほどのトレーニングに明け暮れ、1989年5月には米カリフォルニア州サンノゼで行われた国際グランプリ(GP)シリーズでヤン・ゼレズニーが持つ当時の世界記録にあと6センチに迫った。その87メートル60が今なお残る日本記録だ。最初の計測は「87メートル68」とコールされ、世界新記録と思いきや、まさかの計り直しで世界歴代2位となった経緯もある。 「競技を始めてから、記録を自分の限界まで伸ばしたいとしか思っていなかった。ただ、なぜあそこまで固執したのかは、自分ではよう分からん。大学に入った時は親にお金を使ってもらうんやから、やり投げぐらいは必死に頑張ろうというところから始まった」