元日本代表が吐露…「自分の力じゃもう勝たせられない」 全盛期との差を痛感、プロ引き際の背景【コラム】
以前なら…という場面で決められず「すごく残念に思う」
興梠は試合後に「別に言い訳をするつもりはないけど、そう簡単にゴールはできないと思っていたけど、今まではああいう少ないチャンスも決めてきた。でも、今日は決められなかったですね。難しい場面だったし、映像を見ないとうまくしゃべれないけど、決めたかった」と話す。 そして、「ファン・サポーターはもちろん、自分がゴールをするのを期待していたと思う。その期待に応えられないのが自分自身すごく残念に思うし、今日は頭からスタメンで出たけど、自分の力じゃもう勝たせることはできないと感じた。自分ではもう少しできると思っていたけど、自分自身にすごくがっかりしている」と、しみじみと話した。 昨年の序盤に出遅れた浦和は、状況を打開するため興梠がレギュラーに復帰した。セレッソ大阪戦ではうまく相手を出し抜いてPKを獲得し、柏レイソル戦で見事な駆け引きからゴールを決めるなど、緩急を生かしたプレーは健在だった。ACL決勝のアル・ヒラル戦では、いち早くこぼれ球に反応してゴールも決めた。マチェイ・スコルジャ監督は興梠を「浦和の将軍」とも称した。 だが夏場を過ぎたころから、ゴール前で身体をぶつけられながらでもプレーするような場面では、以前なら相手を抑え込んで決めていたようなものがシュートまで持ち込めなくなっていた。恐らく今でも、フリーな状態でシュートを打てる場面では高い決定力を発揮するだろうし、駆け引きで相手を外してボールを受ける技術などはトップレベルだろう。ただ、ゴール前というサッカーで最も激しい戦場で戦う選手としては、スパイクを脱ぐのに良いタイミングだったのかもしれない
興梠の偉大さは「逃げないところ」原口が語った凄み
引退のセレモニーでも、強いライバル関係のある鹿島から浦和に移籍するに際し「誰1人として僕を受け入れていなかったと思う」という逆風の中でスタートしたことを振り返った。それでも、最後の取材対応では「鹿島から浦和に来た年ですかね、鹿島とのアウェーゲームでサポーターが自分のチャントを歌いながらスタジアムに入っていくシーンをYouTubeで見て、鳥肌が立った。嬉しかった」と、11年前のことを思い出して笑顔も見せた。 原口は興梠の偉大さを「逃げないところじゃないですかね。常に点を取らなきゃいけない、ボールを収めないといけないっていうプレッシャーから1回も逃げたことがないと思うので、そういった姿勢はファン・サポーターに響いていると思うし、プロキャリアでずっと彼はそことのプレッシャーと戦いながらやってきた中で、おそらく一度も逃げずに、ボールを収めて、ゴールを決めてきた選手だから」と話す。そのプレーと姿勢で人々の心を魅了して、2代目のチャントでは「浦和のエース」と称された。 すでにセカンドキャリアでの目標を指導者に定め、立場は変わるが来季も浦和で活動することを表明している。10年と少しの間、浦和の最前線にはいつも「30番」をつけたエースの姿があった。数えきれないほどのゲームで浦和を勝利に導いたストライカーは静かにピッチを去っていくが、プロとしての厳しさやゴール前でのシビアさを見せてきた発言やプレーと、相反するようにはにかんだ笑顔を見せてきたエースのことは、浦和の歴史の中でいつまでも記憶されていくだろう。
FOOTBALL ZONE編集部