角田光代の「ナムル観」をくつがえした韓国料理店とは/著名人3人の「行きつけ」を公開
11月も下旬に入り、忘年会の店選びをしている人も多いのではないか。気の置けない仲間同士ならともかく、自分がホストになって誰かをもてなそうというときは、確実においしい店を選びたいのが人情。そんなとき、「誰かの行きつけ」がたよりになる。 老舗、王道、ニューオープンなど、250軒の飲食店を網羅した東京のグルメガイド『東京おいしい店カタログ』は巻頭で、小説家の角田光代さん、ミュージシャンの小宮山雄飛さん、文筆家でエッセイストの甲斐みのりさん3人の「行きつけ」を3店ずつ紹介している。 3人が語る「行きつけの理由」もそれぞれに味わい深い。11月21日に発売されたばかりのこの本から、この巻頭企画をほぼ丸ごと配信したい。 *** ■作家 角田光代さんの3店 現代に生きる人々の人間模様をテーマにした作品で、数々の賞を受賞している角田光代さん。彼女が「行きつけ」として紹介してくれたのは、作り手の魅力が伝わる、韓国、中国、モンゴルの料理を提供する3店だ。 【Onggi(オンギ)/杉並区】 Onggiは、西荻窪にあるこぢんまりとした韓国料理店。店主のカンさんが目指すのは、今までの「辛くて刺激的な料理」というイメージを覆す、新しい韓国料理だ。 旬の野菜をたっぷり使ったコース料理で、そのなんとも滋味深い味わいに心身ともに元気になれる。角田さんが「ナムル観をくつがえされる」と評するナムルは、白ウリや茎ワカメ、ズッキーニなど7種ほどの旬菜を使い、野菜のおいしさを引き出したひと皿。テンジャン(みそ)が添えられ、少しずつ混ぜていただくのもおすすめだ。 角田さんは言う。「野菜中心、和の食材も取り入れた、本当においしい韓国料理です。音楽と韓国ドラマにくわしい店主のカンさんとのおしゃべりも楽しみのひとつです」。
【手作り餃子の店 吉春(よしはる)/調布市】 角田さんの「行きつけ」2軒目は、中国吉林省出身の吉村千恵子さん・隆一さん姉弟が切り盛りする餃子の店。熟練の技で作り上げる餃子は、皮からすべて手作り。鮮度を保つため、餡を作る直前に粗めにひくという米沢豚とキャベツ、ニラが入った定番餃子から、季節の野菜を使う餃子も好評だ。 友人に連れて行ってもらって「感動しました」という角田さん。「オーソドックスな餃子も季節の野菜入りもあり、身体の中からきれいになるような餃子です」と話す。食材から作り方まで細部にこだわった餃子には、またすぐにでも食べたくなる魅力が詰まっている。 【馬記 蒙古肉餅(マーキー モウコローピン)/新宿区】 「満席でも日本語が聞こえてこないときがあります」と角田さんが言うように、「馬記 蒙古肉餅」は世界各国の人々が本場のモンゴル料理目当てに訪れる名店だ。内モンゴル出身の店主夫妻が切り盛りする。 角田さんが推す「蒙古肉餅」は、羊肉をクミン、コショウ、ショウガなどで味付けし、ネギを加えた餡を生地で挟んだ内モンゴルの家庭料理。シンプルながらあとを引くおいしさだ。「羊肉好きの私にとっては羊祭かと思うくらいの羊メニュウがあってうれしい。店名にもなっている羊の肉餅、ラム串がおいしいです」と角田さん。羊を愛する人は、是非訪ねてほしい。 小説家 角田光代さん/横浜生まれ。1990年『幸福な遊戯』(角川書店)で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。2005年『対岸の彼女』(文藝春秋)で直木賞を受賞。2007年『八日目の蝉』(中央公論新社)で中央公論文芸賞を受賞。ほか著書多数