鍵は成長パターン?約6億年前出現、奇妙な最古動物の正体探る新研究
ディッキンソニア:先カンブリア代の代表化石
一連の奇妙な姿をしたミステリアスなエディアカラ生物群の(原始的動物を含む)生き物たち。その中でも最も有名なものに「Dickinsonia」という属がいる。英語では「ディッキンソニア」の音に近い。 ディッキンソニアという属の名前は1947年にSpriggによって初めて名づけられた。意味は当時のあるオーストラリアの博物館で館長を務めていたディッキンソン(Dickinson)氏に敬意をこめてつけられた。ちなみに化石の名前をつける時、特定の人物をもとにネーミングが行われることは時々みられる。(そして、余談だが研究者が自分の名前をつけることは禁止されている。) 現在、ディッキンソニア属には数種が知られ、近縁の属もいくつかいる。化石はエディアカラ時代の地層から実にたくさん見つかる。当時の海環境に適応し、多様性をすぐに遂げたようだ。(化石記録によれば、先述したように爆発的に出現した。) ディッキンソニアの体つきはかなりシンプルだ。ほとんど絵心のない私でも、簡単にさらっと描くことができる(「解剖図」のイラスト参照)。卵方の楕円形な輪郭をもち、体全体はのっぺらしていた。体の中心から何本も外側に向かって破線状のパターンがみられる(化石のイメージはこちらを参照:)。
私の心血注いだディッキンソニアのイラストを、「かなりいい加減な絵だ」と勘違いされる方がいるかもしれない。そのためあえてここで断っておきたい。生物進化の大きな傾向としてシンプルなものから「より複雑なものへの変化」という点があるだろう。そして最初期の動物は、(どなたでも簡単に描くことができるほど)「単純な体の構造」をもっていたといえる。(決して筆者の開き直りでも言い訳でもない。) しかし、このディッキンソニアにおいて最も重要で興味深い事実は、この生物の正式な「分類学上の正体」だろう。
ディッキンソニア:その正体の謎
私の知る限り、ディッキンソニアの分類学上に正体に関する意見は大きく分かれている。現在知られている生物でディッキンソニアのような特徴を持つものは見当たらない。そのため、研究者はかなり大胆にまるで異なる意見を出し合っている。(生物の多様性や進化のミステリアス性を楽しんでいるかのような雰囲気さえ私には感じられる。) 以下に主な仮説を並べてみた。 (1)初期動物I(正体不明):現生の生物と「似たものが見つからない」という事実は、過去に絶滅したグループの可能性が当然ある。先カンブリア代の生物にはこうしたものがいくつか知られている。ディッキンソニアをVendobiontaやdickinsoniamorphs等の大きな(門レベルの)独自グループに属するべきだと提案する研究者がいる。 (2)初期動物II(クラゲや珊瑚の仲間):クラゲや珊瑚など刺胞動物(の一個体)は、体の構造上、オープニング(体腔および穴)が一つしか開いてない。食物を取り入れ排出する役目を一つの穴でまかなう原始的スタイルをいまだにもっている(脊椎度動物や昆虫などより先進的な動物は、頭部と臀部に二つの異なる穴がある)。ディッキンソニアがクラゲや珊瑚のような初期動物の形態を備えたグループに分類するのは、とりあえず理屈上つじつまが合う。(そういえばディッキンソニアの体つきは、何となくひしゃげたクラゲに似ていなくもない。) (3)初期動物III(スポンジ・カイメンの仲間):現生の動物の中でもっとも原始的なグループとされる「海綿動物門」。このグループにディッキンソニアが属すとするアイデアは根強い。しかし研究者によってはディッキンソニアがスポンジなどと比べ、より「先進的だった」とするアイデアを提唱する者もいる(注:4番目と5番目のアイデア参照)。 (4)初期動物IV(環形動物の仲間):上のイラストで示してあるように独特の「線状のしわ」が、ミミズやゴカイのような「筋肉の痕」だったと主張する研究者がいる。そして前方(=頭部?)と後ろ側(=臀部?)に体の部分を位置づけられると説く古生物学者もいる。そのため環形動物に属す(およびこのグループの祖先)という仮説がある。(この仮説によれば筋肉を使って自由に動き回ることができた可能性もある。) (5)先進的動物(脊椎動物の祖先):4番目のアイデアをさらに発展し、脊椎動物の「遠い祖先だった」とする仮説(異説?)も出されている。さてその真相やいかに? 以上は「初期動物グループ」仮説の一覧だ。しかしディッキンソニアが動物ではなく「まるで別の生物グループ」に分類されるというアイデアを説く研究者も(かなり)いるようだ。 (6)細菌類:バクテリアなどの細菌が集合し、ストロマトライトのような構造物をディッキンソニアとして残した可能性があったかもしれない。 (7)菌類:ディッキンソニアはキノコのような形をしていなくもない。ちなみに菌類は動物界と植物界の間に進化系統上、位置するとされる。 (8)地衣類:微生物がコロニーをつくりディッキンソニアを形成したのだろうか? 6番目から8番目に「動物外」の仮説を並べてみた。ちなみに7番目の菌類仮説と8番目のコケ類仮説が正しいとすると、ディッキンソニアは海底ではなく、「地表に生活していた」ことになる。そのためディッキンソニアを含む地層の堆積岩の研究も重要だろう。 こうしてさまざまなディッキンソニアの正体に関する仮説を改めてまとめてみてみると、「まるで違う生物グループ」がみられる。この事実はどう贔屓(ひいき)目に見ても、ディッキンソニアの正体が「よく分かっていない」ことを示しているのではないだろうか?