名古屋が誇る「日本一の敬老パス」 JR・私鉄OKの「太っ腹」が成り立つ裏事情とは?
「クルマ依存度の高い」名古屋市民にとっての敬老パスとは
名古屋市の敬老パスと同様のシルバーパス制度は、全国の多くの地方自治体でさまざまな形で取り入れられている。しかし、政令市の中には千葉市、さいたま市、静岡市など制度そのものがないところもある。また、導入している自治体でも近年「地方財政を圧迫している」「経済効果はあるのか」「高齢者を優遇しすぎ」など、見直しを求める声が上がっているようだ。 そんな中にあって、1973年(当時は「敬老特別乗車券」の名称)から始まった名古屋市の制度は、極めて手厚いと言える。ところが、人口約232万人のうちの4人に1人が65歳以上の高齢者である名古屋市で、敬老パスの交付率は対象の55%だという。半数近くはせっかくの制度を利用していない。 これは、財政悪化に伴って2004年度から所得に応じて最大年5000円の自己負担金がかかるようになったことと、そもそも名古屋市民は自家用車への依存度が高いことが理由ではないか、と私は考えている。実際、私の知人は「普段の買い物や通院はクルマ。ときどき繁華街の栄まで行くが、市バスと名鉄、地下鉄を乗り継いで行くよりクルマの方がよほど早いし、荷物だって載せられる。敬老パスは申し込まない」と話している。
実は、今回の敬老パスの利用範囲拡大は、名古屋市の河村たかし市長の目玉公約を実現したものでもある。2021年4月に行われた市長選で、河村市長は「敬老パスでJRにも乗れるようになる」と訴え、4期目の当選を果たした。その岩盤支持層は高齢世代であることはよく知られている。 そう考えると、「日本一の敬老パス」というイメージの恩恵を一番受けているのは、実は河村市長なのかもしれない。 (水野誠志朗/nameken)