名古屋が誇る「日本一の敬老パス」 JR・私鉄OKの「太っ腹」が成り立つ裏事情とは?
名古屋市には高齢者を対象とした公共交通機関の優待券「敬老パス」がある。65歳以上の住民であれば、所得に応じた自己負担金(最大年5000円)を払うことで、名古屋市営地下鉄や市営バスなど市出資の交通機関を運賃なしで利用できるもので、全国に先駆けて半世紀前に導入された。 名古屋市・河村市長が定例会見(2022年3月22日) 政令市では数少ない65歳以上から使える制度だが、今年2月からはさらにパスの使える範囲が拡大。市内を走るJR、名古屋鉄道(名鉄)、近畿日本鉄道(近鉄)でも利用可能となった。「シルバー(65歳以上)」の領域に入った名古屋市在住の筆者にとっては非常にありがたい変更ではあるのだが、ここで一つの疑問が頭に浮かぶ。 「そもそも高齢化が進む中、こんな太っ腹な制度が成り立つものなのか?」 その謎を解き明かしていきたい。
市内乗り降りはJRでも“実質無料”、ただし例外も
名古屋の敬老パスは、交通系ICカードとして交付される。これまでは、これを市営地下鉄駅の改札口でかざせば、市内なら無料で乗り降りできたが、JRや名鉄などに乗る際は、「manaca(名古屋市出資の第三セクターが発行するSuicaやPASMOのような交通系ICカード)」と同様に料金をチャージして有料で乗る必要があった。 これが今年2月からJRや名鉄などに乗った場合、いったんチャージ料金から運賃は引かれるが、2カ月後に個人の口座に運賃が払い戻される仕組みに変わった。タイムラグはあるものの、実質無料となるわけだ。 ただし、無料で乗降できるのは名古屋市内の駅に限られている。市内の駅から乗って市外の駅で降りた場合、逆に市外の駅から乗って市内の駅で降りた場合は、いずれもJRや私鉄は市内分を含めて有料になってしまう。もし、JRや私鉄の市内分を無料にしようとするなら、市外に行く場合は路線の最後の市内駅で電車を降り、いったん改札を出て次の電車に乗るという手間をかけるという不便を強いられる。 ただ、例外もあり、名鉄と相互乗り入れしている地下鉄「鶴舞線」は、市外で乗り降りしても、市内分は自動的に計算されて無料になるのだという。 この理由について名古屋市高齢福祉課は「JRなどの場合、ICカード会社から供給を受けた乗降データで、利用分の振り込み額を計算する際の仕組みができていないから」と説明する。鶴舞線は既に相互乗り入れで仕組みが作られていたため、名古屋市内分の無料化が可能なのだという。