「発達障害は一生治らないし、治療方法はない」は本当?…発達障害について、誤った認識を持っていませんか?
治療開始
A君の継続的な相談が始まった。集中困難と自信の喪失が目立ったため、少量の抗うつ剤を服用してもらったところ、A君はいくらか元気になり、課題への取り組みも向上したため、しばらく継続して用いることになった。後から振り返ると、この抗うつ剤が少し有効であったということが、実は大きなボタンの掛け違いを生じてしまったのではないかと悔やまれる。 本人の意欲は回復したが、学習は徐々に遅れが目立つようになった。母親は熱心にA君の勉強を見ていたが、小学校高学年になるとA君ははっきりと学習をいやがるようになった。 私はまず個別の学習を行う時間を設けられないかと学校にお願いした。80年代後半の当時、学習障害がやっと話題になり始めたころである。まだ特別支援教育という概念は日本には存在しなかった。 学校の返事は、「地域では通級(通常学級に在籍して特殊学級に出かけること)の制度はなく、知能にはっきりとした遅れのない子は特殊学級の対象にならない」とのことであった。しかし「本人や家族が希望するなら、特殊学級に転級を検討する」と学校からは返答があった。そこでA君が学校の授業にはまったくついていけなくなった時点で、私はA君のご両親に特殊学級への転級を勧めた。しかし、母親も父親も、A君が友人と一緒に学習をしたいと望んでいる、また担任教師も特殊学級に行かなくても大丈夫だと言ったということで、転級を拒否した。 さらに家族は、遠方のT大学病院にわざわざA君を連れていき、その医師からは特殊学級などとんでもないと言われたそうである。ちなみにこの医師は、どのようなハンディがある児童でも通常学級でと当時主張をされていた。 先に述べたように学習障害の概念はこのころからわが国に広まりだしており、教育サイドも医療サイドもその対応方法は一貫していなかった。私自身も教育の処遇に関して、十分に確信を持って対応していなかったと思う。このころA君はしばしば学校でいじめにもあっていたが、有力な同級生の子分となることで、いじめの被害はなくなったという。どうもこのころから、ご両親は、特殊学級に行きたくなければ勉強するしかないといった説得を繰り返していたようである。