【海外試乗】新たなマスクを得たボルボのフラッグシップ、XC90に北欧で乗る まだまだ内燃エンジン車の進化も続く!
初代とは別物の乗り心地!
中国・上海とオランダ・アムステルダムで飛行機を乗り継ぎ、辿り着いたのは北欧デンマークの首都・コペンハーゲンにあるカストルプ空港。そのはずれにあるパーキングで待っていたのは、近年のボルボにとって久々となる内燃エンジン搭載のニュー・モデルだった。 【写真99枚】若々しい見た目に進化した2代目XC90。新デザインのグリルをはじめ、バンパー、ボンネット、フェンダー、ライトも一新されている ◆出発地はコペンハーゲン いつまでも暖かく夏の気配を残す11月の東京から、一路コペンハーゲンへ。空港から一歩外へ出ると、そこは冬だった。冷気が肌を刺し、薄着の身が一気に引き締まる。ダウンとコートを羽織り、一息つく。空港も市街地も電気自動車だらけだ。インセンティブも大きいようだし、厳しい寒さではプレヒーティングが有用なこともあり、タクシーは100%電気。見上げればビル壁面の巨大広告は、中国の新興、シャオペンのもの。あちこちで見かけたことのないクルマが、音もなく走っている。なぜこの地が改良されたボルボの旗艦SUVの、しかも内燃エンジン搭載のXC90試乗の出発場所に選ばれたのか、僕は考えていた。 コペンハーゲンは都市としては大きくないが、デンマークの首都だ。試乗のルートはここからオースレン・リンクというトンネルと橋を経て国境を越え、スウェーデン南のマルメ近郊を走り、ふたたび空港に戻ってくる。地図によれば道は片側2車線の幹線道路が中心だが、小さな村や町も通り抜ける。たっぷり走れるのはうれしいが、ボルボの試乗会でよくある氷上などクローズド・セッションはなし。これは「欧州のいまの都市部と郊外、両方のリアルを見せよう」ということなのだろうか? というのも、ボルボは近年XC40リチャージとC40から改名したEX40とEC40、ミニバンのEM90、スモールカーのEX30、そして大型SUVのEX90というぐあいに、一気呵成に電気自動車を市場へ投入してきた。2030年までに全ラインナップを電気自動車にするという目標を掲げていたからだ。EX90には大型サルーンのES90が続く。 しかし2024年9月のEX90とXC90のお披露目の際に、これを修正。現状の顧客の要望をふまえ、2030年までに90~100%を電気自動車とプラグイン・ハイブリッドに、残りをマイルド・ハイブリッドとする、より現実的な目標へ変更したのだ。つまり、プラグイン・ハイブリッドはもちろん、マイルド・ハイブリッドの開発も続行。世界情勢も含め先行きが見えない中、どこに焦点を定め、そして定めたら、いかに早く切り替えるかが肝心。目の前を走るクルマたちを見ると、それをひしひしと実感する。 ◆上手な差別化 2代目となるXC90は、ジーリー傘下となって最初に莫大な投資をして登場したモデル。ボルボのターニング・ポイントであり、近年のデザインの先駆けとなったクルマでもある。2014年の登場以来アップデートは幾度もされてきたが、ここまで見た目の印象が変わるのは初だ。ひとことでいえば、若返った感じ。バンパー、ボンネット、フェンダー、ライトを一新。中でも注目されるのはボルボの象徴、アイアンマークの矢印にそって斜めに走る桟と、クロスするようにまた桟が組み合わさる、不思議なグリルだろう。 実車を見るまで、基本的に水平基調を旨としてきた改良前に比べてどうかと思っていたが、違和感はない。細身になったトールハンマーと呼ばれるT字LEDライトとの相性もいい。XC90はグリルレスとドット・パターン・ライトという身内の鉄仮面顔の電気自動車群と差別化しつつ、新しさを備えた、うまい落としどころを見つけたと思う。試乗車には用意はなかったが、ダークでシックなグリルも設定されるという。 ◆味方が即呼び出せる 2台用意されていた車両のうち、最初に乗ったのはデニム・ブルーのB5というベーシックな仕様だ。 ドアを開けると、見慣れたオーソドックスな真円のステアリング・ホイールと、サイズがたっぷりしたシートの眺めにほっとする。 前席の座面前部が伸縮式で、膝裏のちょうどいいところまで支えてくれる構造自体は変わらず、しかも再生素材の表皮はクラシカルな雰囲気で、ざっくりとしていて風合いもいい。色味はネイビーのみで、マッサージ機構との組み合わせの関係でこのヘリンボーン織シートの導入は未定だそうだが、上陸を期待したいところだ。 インストゥルメント・パネルも刷新されたが、改良カ所は中央部に集中。当然ドライビング・ポジションには影響なく、高い位置から見下ろす形でぴたりと出る。液晶はぐっと大きくなり、左右の空気吹き出し口の造形は違うが、それ以外スイッチなど配置も従来通り。だが、携帯電話のワイヤレス充電器など、現代のクルマとして求められるアイテムは外していない。 新しいXC90のパワートレインは2本立てで、このB5が2リットル直4ターボと統合型スターター&オルタネーターによるマイルド・ハイブリッド。 日本チームのもう1台、ブライト・ダスク、いうなれば“明るい黄昏”という色のT8が、2リットル直4ターボとセンター・トンネル部の18.8Kwhのバッテリー、そして後軸上モーターを組み合わせたプラグイン・ハイブリッドだ。 ナビの英語音声に従い、T8を引き連れて先導する。すぐスウェーデンに渡るオースレン・リンクだ。東京湾アクアラインと同じく、長いトンネルを越えると高架橋で海の上へ。風は結構あるようだが、ふらつくこともなく、直進性はいい。その上同乗者が横からGoogle由来の車載システムの設定を変更し、あっという間にインターフェイスの日本語化と、ガイドが日本語音声に切り替わった。 ローカライズは完璧といっていい。走り慣れないスウェーデンで、いっきに百万の味方を得た気分になる。 ◆以前とは別物 橋の路面は平滑だったけれど、それを過ぎるとつぎはぎが多めの、ジョイントも轍もある旧い幹線道路が中心だった。静岡エリアで新東名から東名に移ったくらいの感覚だ。最高速度の標識はころころと変化するが、前があくと同時に110/km/hの標識が見えたので、速度を上げる。 シュターン、スターン。継ぎ目の越え方に耳をそばだてるとこんな感じだろうか。思わずおっと声が出る。静かな上、足さばきが上手い。ボルボの中大型車、60/90系が採用するSPAというシャシーは標準サスペンションの場合、フロントはショックアブソーバーにコイルだが、リアは樹脂の横置きリーフ・スプリングを組み合わせる。Rデザインなど足を硬くするスポーティな仕様は統一感があり、結構踏める記憶があるが、標準仕様はやや姿勢変化が大きい印象があった。でもこのB5は足がきちんと動き、視線が揺れる感じがしない。冬季ゆえあたりの柔らかなウインター・タイヤを履くことをふまえても、改良前とは別物だ。 大きな曲率のコーナーはジャンクションの合流路くらいしかないが、速度を上げたまま侵入していっても、ゆっくりきれいにロールしながら曲がっていく。ステアリングの感触は2段階に調整ができるが、いずれも伝わってくる情報量は豊かだ。反応は穏やかで、重く大きなものを操っていることをドライバーにちゃんと認識させる仕立ても変わっていない。でもクルマ全体が、なんだか一回り小さく感じる。これならもっと飛ばせる、と思ったのだが、その先は市街地だった。町の入口の、速度規制の大きなバンプも衝撃を伝えずいなすことは分かったが、気になったので昼食会場で、ヴィークル・ダイナミクス担当のロバート・ルノルフソンさんに尋ねてみた。 「今回の改良は標準のサスペンションにフォーカス。フレキュエンシー・セレクティブ・ダンピング(FSD)機構を組み入れ、スプリングはより柔らかなもので再セッティングしました」 FSDはショックアブソーバーの中にオイル経路を追加し、ダイナミックな動きとコンフォート性能のいいとこ取りを狙った、周波数感応式と呼ばれる電子制御を必要としない、純メカニカルなものだという。 「より予測可能でコントロールしやすいセッティングを狙っていったら、結果的にコンフォート性能も向上したんです。T8のエアサスはハードウェアはそのまま、標準のサスペンションと同じ性格を狙って仕立てました。静かに感じたのは、追加されたA、Bピラーの遮音材とラミネート・ウインドウの効果でしょう」 午後になって乗り換えたT8は、確かに彼のいうとおりの印象だったが、速度を上げていくと、落ち着かないところも見せた。B5に比べバッテリーやモーターの重量増が響いているのだろう。ルノルフソンさんはエアサスには車高調整機構などのメリットもある、というが、僕はB5こそが、まさにフォーカスがぴたりと合った感じがした。 しかしT8で代わりに舌を巻いたのは、インフォテインメントと同じく著しい進化を遂げた電子制御だ。電力を急激に出し入れしないようにしつつ、けれど効果的に使い、守備範囲を広げたモーターの威力は大きい。静けさも滑らかさもB5とは段違いだ。 なお自動追従やレーンアシストなど先進運転者補助はT8で主に試したが、反応はきめ細やかで改良前よりずっと滑らかなものになっていたことも付け加えておきたい。 ◆地道な改良は続く ボルボは目標の到達時期を変更はしているが、電動化へのルートはハッキリしている。内燃エンジンを載せたXC90は主流ではない。だからこそ様々なところを焦点を絞って手当をしたのだが、それが見事にいい結果として出ている。 1台の自動車が世に出ても、熟成もされず短期間で消費されている現代において、登場から時間が経ったXC90のようなクルマが地道に改良されることは希だ。電動化が一気に進んでいたらXC90は早々にEX90にその座を譲り渡していただろう。 夕食の席では、850時代からボルボに勤め、最初は変速機を、今はハイブリッド担当というラース・ハリーンさんと一緒になった。日本で旧いボルボが人気なことが話題になり、僕が「XC90も240のように長いモデルライフを持つかもしれませんね」というと、彼はこう答えた。「たしか240は1974年から1993年までだから、……19年ですよ」。 「XC90は少なくとも、2030年までのあと5、6年くらい長生きするでしょうね。残念ながらそれでも少し240にはおよばない。でも、いいクルマは長生きです」と続けた僕に、彼は笑みを浮かべ、うなずいた。まだまだやるべきことがある、そういう思いが伝わってきた。 新しいボルボXC90は、2025年の前半、あまり遅くない時期には日本へやって来るという。 文=上田純一郎(本誌) 写真=ボルボ・カーズ ■ボルボXC90 T8 AWD 駆動方式 フロント横置きエンジン4輪駆動 全長×全幅×全高 4953×1923×1771mm ホイールベース 2984mm 車両重量 2297kg エンジン形式 水冷直列4気筒DOHCターボ+モーター 圧縮比 10.3:1 排気量 1969cc 最高出力(モーター) 310ps/6000rpm(146ps) 最大トルク(モーター) 400Nm/3000-4800rpm(309Nm) トランスミッション 8段AT サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン+エア (後) マルチリンク+エア ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク タイヤ (前後) 275/35R22 車両本体価格 未定 ■ボルボXC90 B5 AWD 駆動方式 フロント横置きエンジン4輪駆動 全長×全幅×全高 4953×1923×1771mm ホイールベース 2984mm 車両重量 2080kg エンジン形式 水冷直列4気筒DOHCターボ+モーター 圧縮比 11.5:1 排気量 1969cc 最高出力(モーター) 250ps/5400-5700rpm(14ps) 最大トルク(モーター) 360Nm/2000-4500rpm(40Nm) トランスミッション 8段AT サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン+コイル (後) マルチリンク+リーフ ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク タイヤ (前後) 275/40R21 車両本体価格 未定 (ENGINE2025年1月号)
上田純一郎