【全文】ノーベル医学生理学賞の大村智氏「全て微生物がやっている仕事」
微生物に興味を持ったきっかけは?
日本経済新聞:よろしいですか。日本経済新聞のアベと申します。このたびは受賞おめでとうございます。お伺いしたいのが、先生は今の会見、お話の中で微生物の力を借りながらここまでやってきたというふうにおっしゃってました。それで、先生がその微生物に、そもそもどうしてご興味を持たれたのかと。なんかきっかけがありましたらそれを教えてください。 大村:はい。私は東京理科大学の修士課程を出まして、その修士の中では化学、合成化学とか有機化学ですね、を中心に研究してました。それで職を得て山梨大学の発酵生産学科という、メインにワインの研究をやったりとかしました。そうしまして、一番驚いたことはゆうべ、この培養液の中に入れといた砂糖とかグルコースとか、そういうものが一晩、二晩のうちにまったく跡形もなくアルコールになってるじゃないですか。このグルコースからアルコールにする反応なんていうのは有機化学者はね、こんないくら有能な有機化学者でも一晩のうちにできませんよ。それでね、生物っていうのはすごいなっていう感じもしましたね。 で、そんなことやってるうちに北里研究所に来ましたから、じゃあ微生物と私が今まで培ってきた化学の力を、両方をうまく利用して私の研究をやろうっていうのがそもそもの、この抗生物質へのめり込んだ、抗生物質というか微生物代謝産物の研究にのめり込んだきっかけなんです。 司会:ほかに。じゃあ真ん中の。 日経バイオテク:日経BP社『日経バイオテク』編集部のコウノと申します。受賞おめでとうございます。薬を創るという仕事は、一生のうちに1つも製品化に成功するような人、なかなかいないわけで、それにもかかわらず先生はいくつもその実用化に成功していると。これは今から振り返られて何が良かったのかなと、人と何が違ったのかなというところを教えていただいてよろしいでしょうか。 大村:あのね、特に抗生物質というかこの領域の研究というのは、完全なる共同研究の固まりによって得られる成果なんですよ。その共同研究をやる微生物の化学、バイオ、細菌学、こういう人たちの力がうまくあったから、私はそういう成果を上げられたと思います。 それからもう1つは私自身はなるべく幅広く、いろんなことを自分自身が知らなきゃいけないということで、めちゃくちゃ本を読んで、めちゃくちゃいろんな勉強をした。全体をいつもつかむんです。全体の流れをいつもつかむという形で研究を進めてきてるわけです。これがやっぱし今、振り返ってみて良かったなと思いますね。 だから、おまえの専門はなんだと言われたら、ちょっとすぐには言えない。若いころにはもちろん、有機合成ですとかなんか言えるけど、今、私の専門なんだろう。結局肩書は、スペシャルコーディネーターになっちゃたわけですけどね。 そういうわけで、共同研究体制をきちっとできたから、それが皆さん、うまく歯車をきちっと合わせてやってるから、われわれの部屋からはいいものが見つかってきてると思います。 日経バイオテク:もう1つ。なかなかその業績が出ないときもあったかと思うんですが、苦しいご経験をされていたらそれも教えてください。 大村:これ、いくつかそういう時期がありますけどね、私の場合はいつも、うちのグループの場合は6つとか多いときは20種類ぐらいのこのシステム、スクリーニング系を持ってるわけですね。そういう人たちにこのサンプルが流れてきますから、まったくものが見つからない年が何年も続くってことはまずあり得ないですね。だから、そういうやり方もできたのが良かったと思います。これもやっぱし、なんて言うのかな。化学やってる人も、細菌学やってる人もみんながそういう心掛けでもって、共同研究やろうという雰囲気ができたから良かったと思いますね。 日経バイオテク:ありがとうございます。 司会:それでは、続きましてこちらの女性の方。