佐野元春の初ヒットアルバム『SOMEDAY』 現代の若者にも通じる都会人の孤独や青春【休日に聴きたい名盤】
オリコンチャート4位の大ヒット
『SOMEDAY』のデモテープをレコード会社から渡されて聴き、ぼくはようやく佐野元春がヒット・アルバムを作ったと思った。ばくのその予感は当たり、オリコンのアルバム・チャート4位にランクされる大ヒットとなった。 "都会生活者の抱える孤独、そしてぼくのロックをようやく満足いける形にできたと思います。このアルバムが売れなかったら、音楽活動を辞めようと思うくらい、意気込んでレコーディングしました。これまで2枚アルバムを作って、ようやくレコーディングのこつみたいなものも掴めたと思います" 発売直後のアルバム・プロモーションのインタビユーでそう語ってくれた。
バック・コーラスに沢田研二が参加、圧倒的な存在感
『SOMEDAY』には様々な形の都会人の孤独や青春が描かれている。オーソドックスなロックンロール・サウンドに、当時流行していたシティ・ミュージックのエッセンスも盛り込まれている傑作だ。一過性のヒットで終わらない、21世紀の今聴いても優れたジャパ ニーズ・ロック・アルバムだと思う。 ここで描かれた青春は、現代の若者に通じる不変性がある。特に8分を超える大曲「ロックンロール・ナイト」は、いつの時代にも変わらない若者の心情が詰め込まれている。 ユニークだと思ったのは「ヴァニティ・ファクトリー」だ。軽快なロックンロール・サウンドのこの曲には、バック・コーラスとして沢田研二が参加している。リード・シンガーより目立ってはいけないバック・コーラスなのに、沢田研二の声は一聴して分かるほど強烈にアピールしてくる。沢田研二ってどこまでもリード・シンガーだなと思わされた。
「アメリカに住みたい」ニューヨークで傑作アルバムが誕生
『SOMEDAY』がヒットした翌年、1983年に東京は原宿の喫茶店で佐野元春と個人的に会った。周囲は大反対しているけれど、しばらくアメリカに住みたいと思うがどうだろうと訊かれた。そりゃ周囲は反対するだろう。 せっかくヒットが生まれたのにアメリカに 拠点を移したいと言ったら、関係者の多くは 反対するに決まっている。 でも、ぼくは当時の佐野元春のあくなき音楽的探求心を分かっていた。"別に音楽活動を辞めるわけじゃないので、アメリカでアルバムを作ればいい"。ぼくはそうアドバイスをした。こうして『VISITORS』(1984年)という『SOMEDAY』に並ぶ傑作がニューヨークで生まれた。その 後も、そのメッセージ性を含めて、佐野元春の音楽は進化し続けて止まらない。 『SOMEDAY』は佐野元春という人間の人柄が生んだ、都会人への癒しと青春のアルバムだと思う。 ■『SOMEDAY(サムデイ)』 01.シュガータイム 02.ハッピーマン 03.ダウンタウンボーイ 04.二人のバースディ 05.麗しのドンナ・アンナ 06.サムデイ 07.アイム・イン・ブルー 08.真夜中に清めて 09.ヴァニティ・ファクトリー 10.ロックンロール・ナイト 11.サンチャイルドは僕の友達 岩田由記夫 1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。近著は『岩田由記夫のRock & Pop オーディオ入門 音楽とオーディオの新発見(ONTOMO MOOK)』(音楽之友社・1980円)。