“ブラックホールは存在した” アインシュタインの理論を100年かけて証明した科学者の情熱
「イベント・ホライズン・テレスコープ」で直接撮像に成功
このように、限られた情報をもとに科学者は理論的推論と豊かな発想力で、ブラックホールのイメージを築き上げていきました。それまでの観測的な証拠から、ブラックホールは実在すると考えられそうですが、果たして本当に存在するのでしょうか? そこは百聞は一見にしかず。「黒い穴(影)を直接見たい」と思うのが科学者の性というものです。そうしない限り、ブラックホールの存在を確信することはできません。ガスの円盤は光り輝いているので、その光が強い重力によって曲げられ、地球からは図のような黒い穴(影)が見えるはずだと、科学者は予想しました。
その黒い穴を見事捉えることができたのが、「イベント・ホライズン・テレスコープ」(Event Horizon Telescope=EHT)です。イベント・ホライズン・テレスコープは、チリ、米ハワイ、米アリゾナ、メキシコ、スペイン、南極にある6地点8か所の望遠鏡(2017年当時)を連動させ、それぞれの場所で取得した電波のデータを重ね合わせることで、地球サイズの直径約1万キロという仮想的なパラボラアンテナを作りました。そのおかげで、月面のゴルフボールを見分けられる程の視力を手に入れました。人間に例えると、視力はなんと300万。視直径(=目で見た時の大きさ)20マイクロ秒角(1秒角は1度の3600分の1)の天体まで見分けられます。 最も観測しやすいブラックホール候補の一つである前述の銀河M87(地球から約5500万光年の距離)のブラックホールの穴の視直径は40マイクロ秒角。何とかイベント・ホライズン・テレスコープで捉えることができます。(はくちょう座X-1は地球から約6000光年と圧倒的に近いですが、小さい質量のため見た目の穴のサイズは0.1マイクロ秒角以下と小さく、イベント・ホライズン・テレスコープでも捉えることができません)
イベント・ホライズン・テレスコープには、日本もプロジェクトに参画しているチリ・アタカマ砂漠にある「アルマ望遠鏡」も使われています。この国際協力のおかげで高い“視力”を手に入れ、ブラックホールの直接的な証拠を史上初めて画像で示すことができました。