“ブラックホールは存在した” アインシュタインの理論を100年かけて証明した科学者の情熱
直接撮像で幕開けしたブラックホール天文学
国際チームによる今回の発見は、天文学において重要な意味を持っています。まず、銀河の中心に巨大ブラックホールが存在すると明確に分かった点。そして今回史上初めて、電磁波(電波)を使って、アインシュタインが提唱した一般相対性理論を直接検証できた点です。 2016年に、ブラックホール同士が衝突して生じた時空間のさざ波である「重力波」を初めて検出し、一般相対性理論の正しさを検証することができました。重力波の検出とブラックホールの直接撮像、電磁波による観測、そしてシミュレーションなど複数の手法を組み合わせることで、今後さらにブラックホールとその周りを渦巻いているガスの降着円盤、そして円盤に垂直な方向に高速に噴出するプラスマガスのジェットの関係の理解がさらに進むことが期待されます。ブラックホールの性質を理解できれば、超巨大ブラックホールがどのように形成されたのか、銀河の進化とどのような関わりがあるのかが分かり、ひいては私たちの住む宇宙の成り立ちを理解する手がかりになるかもしれません。 今回撮像された画像の背景には、ブラックホールの存在の証明に奔走した科学者たちの努力や思いという壮大なストーリー、そして理論上の“空想”を「実在」へと変えていく物理学の真髄が隠されています。今後また、科学分野における新しい発見のニュースが流れた際には、そんな視点でもお楽しみください。
《参考文献》
・大須賀健(2011)『ゼロからわかるブラックホール―空を歪める暗黒天体が吸い込み、輝き、噴出するメカニズム』 ブルーバックス. ・佐藤勝彦(1996)『相対性理論(岩波基礎物理シリーズ)』 岩波書店. ・野本憲一・定金晃三・佐藤勝彦[編](2009)『恒星(シリーズ現代の天文学)』 日本評論社. ・本間希樹(2017)『巨大ブラックホールの謎 宇宙最大の「時空の穴」に迫る』 ブルーバックス. ・嶺重慎(2008)『ブラックホールを見る!』 岩波科学ライブラリー. ・史上初、ブラックホールの撮影に成功!(Event Horizon Telescope Japan) ・史上初、ブラックホールの撮影に成功 ― 地球サイズの電波望遠鏡で、楕円銀河M87に潜む巨大ブラックホールに迫る(ALMA) ・史上初、ブラックホールの撮影に成功(国立天文台) ・「アルマがわかるハンドブック(PDF)」(ALMA) ◎日本科学未来館 科学コミュニケーター 渡邉吉康(わたなべ・よしやす) 1986年、新潟県生まれ。幼少時に個性豊かな惑星の画像に魅せられたことをきっかけに、惑星科学の道へ。大学院では生命の住める惑星の条件について研究。2016年4月より現職